編集長は度胸がない+愛情がない……週刊誌が凋落した理由(前編)集中連載・週刊誌サミット(1/3 ページ)

» 2009年05月19日 09時08分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 雑誌の休刊や販売部数の減少……名誉棄損訴訟など、出版社をめぐる環境はますます厳しくなっている。そんな状況を打破しようと、“週刊誌サミット”が5月15日、東京・四谷の上智大学で開催された。

 シンポジウムの第1部では「闘論! 週刊誌がこのままなくなってしまっていいのか」と題し、ジャーナリストの田原総一朗氏、ノンフィクション作家の佐野眞一氏、上智大学教授の田島泰彦氏が登壇。そして第2部では「編集長は発言する! 『週刊誌ジャーナリズムは死なない』」とし、10人の編集長(元編集長を含む)が雑誌を取り巻く現状などを語った。

 まずは第1部の座談会の様子を紹介する。

 →弾圧を恐がり、“感度”が鈍い編集者たち――週刊誌が凋落した理由(後編)

週刊誌の編集長は度胸がない

ジャーナリストの田原総一朗氏

司会の元木昌彦:ほとんどの雑誌は1990年から部数を落としている。中には(1990年と2008年を比較し)3分の1近くまで落としている雑誌もあり、大変厳しい時代を迎えている。こういった現状をどうやって切り抜ければいいのか。また雑誌の規制を強くしようという流れが2000年から広がっている。雑誌……特に週刊誌がここまで苦しい状況に置かれている原因について、田原(総一朗)さんはどういう考えをお持ちなのか。教えてください。

田原総一朗:昔『週刊ポスト』で書いていたころ、週刊誌というのは何かと聞かれれば、(答えは)非常に簡単だった。新聞が書けないもの、あるいはテレビが言えないものを週刊誌は書いてきた。それが週刊誌の役割だった。(週刊誌は)テレビが報道できないスキャンダルをドーンと打ち上げ、その週刊誌で活躍する編集長や編集部員はみんな好奇心の塊だった。いかに新聞やテレビに出せないものを書くかということだったが、最近では『週刊現代』が4290万円の賠償金を言い渡され※、(その結果)ひとことで言えば“臆病”になった。臆病になって、新聞やテレビではとても報道されないものが、週刊誌でも掲載されなくなった。

※『週刊現代』が朝青龍と30人の力士から提訴されていた一連の八百長疑惑記事で、総額4290万円支払えという判決が下された。

 週刊誌側は新聞やテレビで報じられない情報で、「勝負しよう」という気力がない。あるいは読者の方がそういうものに期待しないとなると、結局、週刊誌は“危なっかしい”もので勝負しようとする。

 新聞やテレビは「これは危なっかしい」「こんなことを報じれば、やられるに決まっている」というものでも、週刊誌は“勝負”するようになった。そのことが原因で、『週刊新潮』※や『週刊現代』の問題を引き起こすことになった。このままでは週刊誌は、新聞やテレビが報じない怪しげなものを書かざるをえなくなる。そして怪しげなものを書けば書くほど、事件(訴訟)が起きていく。つまり悪循環に陥っていく気がしてならない。

※『週刊新潮』が朝日新聞襲撃事件の「実行犯」を名乗る男性の手記を掲載し、その後誤報を認めて謝罪した問題。

 もう1つの問題として、実はテレビも危ない。テレビは「なぜ牛乳やパンよりも水の価格が高いのか」――といったことを報道しない。なぜなら水を高く売っている会社がテレビの大スポンサーだからだ。週刊誌はこういう問題を書けばいいと思う。

 トヨタの社長が今年、なぜクビになったのか(関連記事)。ハッキリ言えばトヨタは3年前から、社長が経営方針を間違えていた。もちろんトヨタの役員は、「経営方針が間違っていた」などとは言えない。言ったらクビになる。こういった問題は新聞やテレビが報道すればいい。経営方針が間違っていたんだから。そして間違っていたことがあらわになり、トヨタのオーナーが社長のクビを切った。なぜクビを切るまで、新聞やテレビ、週刊誌は報道しなかったのか。

 (このほかにも)こういう問題はたくさんある。今、ソニーはどんどん間違えつつある。その間違えていることを、なぜ週刊誌は書かないのだろうか。報道すること(テーマ)はいくらでもあるが、なぜかそれを報道しようとはしない。なぜなら週刊誌の編集長は度胸がないからだ。

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