コラム
» 2009年04月30日 07時00分 UPDATE

出版&新聞ビジネスの明日を考える:相次ぐ出版社破たん、出版不況を抜け出す術はあるか (5/5)

[長浜淳之介,Business Media 誠]
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出版社、書店は本を売る努力が欠けている

 出版社の破たんが相次ぐばかりでなく、雑誌の廃刊も続くなどといった状況で、明るい話題の少ない出版業界であるが、出版の業界紙『新文化』の石橋毅史編集長は、「今は古い体制が壊れかけていて、新しいものが出てくる生みの苦しみを味わっている」と考えている。

 戦後、出版業の発展の基盤となったのは、間違いなく2大取次を中心とした再販制度だ。再販があったから、出版社は小売サイドの値下げ競争に巻き込まれずに自分で価格を決めて販売できたし、書店は高いリスクを取って本を取次や出版社から買い切らなくても自由に返品できたのだ。

 かつて出版業は不況知らずと言われ、バブル崩壊までは日本の社会、経済に適合したビジネスモデルを持った業種だった。しかし、あまりに最適化したゆえに、情報革命が進んだ21世紀の成功モデルへの脱却に苦しんでいる。

 それにしても、老舗の駅前書店がどんどん閉店しているとはいえ、学術書が500部を売るのも厳しいというのはどうしたことか。全国の公共図書館、大学図書館、企業などの資料室を合わせても、売り先はもっとあるはずだ。

 「都道府県や市町村はどこも予算が苦しいですし、限られた予算の中で本を購入しなければなりません。住民へのサービスの観点からもベストセラーは何冊か買うことになりますから、学術書ばかりを買っていられないのです。出版社は販売を取次任せにしないで、自ら売りに歩くべきです。その努力をしているのかと言いたい」(『新文化』石橋編集長)

 石橋氏は作った本をどうすれば売れるのか、そこを考えて実践する努力が出版社には足りないと指摘する。販売の努力が足りないのは書店も同じで、売れなければ返品できるから、これまで売り場作りに業界全体として工夫を重ねてきたとは言いがたい。座り読みのジュンク堂書店、ブックミュージアムの丸善は例外的なケースである。今年は、太宰治、松本清張、大岡昇平、花田清輝、中島敦、埴谷雄高といった多くの作家の生誕100年にあたり、もっと売り場が盛り上がってもいいはずなのだが、そうもなっていない。気力がなくなっているのかもしれない。

ah_yutore.jpg ユトレヒトWebサイト

 しかし、書店にも少しずつ新しい潮流が生まれつつある。例えば、中目黒のマンションの一室で営業する「ユトレヒト」は、店主のこだわりで絵本、アート、建築、旅などの本を、和書・洋書あるいは新刊・古書の区別なく集めた本屋で、じっくり本を選んでもらえるよう予約制を取っている。同店のサイトを見ると、取り扱っている著者のプロフィールが詳しく記されている。1冊の本から、著者の世界を詳しく知る手掛かりが得られるのだ。また、本に関連したバッグ、Tシャツ、ポスターも売るなど発想が自由だ。

 「ユトレヒト」がプロデュースしたライブラリーが、神奈川県葉山町のデザイナーズホテル「スケープス」内にできるなど、本をセレクトするセンスが評価されてきている。2008年11月には青山に「NOW IDeA」という新店もオープンした。こちらは予約制でなく、近々カフェも併設する予定だという。

 一方で、千葉県市川市の図書館ネットワークを活用した「調べ学習」の実践など、学力低下を危惧する教育行政、各校の施策によって、本に親しむ子どもが「ゆとり教育」最盛期に比べれば増えつつあるようにも思える。

 出版社が本を作ることばかりでなく売ることに注力し、書店がもっとセレクトショップ化して面白い売り場をつくり、教育現場が本に親しむように子どもたちを育てる。そうすれば、本の有用性が社会に浸透し、出版不況にも日が差してくるのではないだろうか。

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。


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