相次ぐ出版社破たん、出版不況を抜け出す術はあるか出版&新聞ビジネスの明日を考える(2/5 ページ)

» 2009年04月30日 07時00分 公開
[長浜淳之介,Business Media 誠]

Amazonとブックオフばかりが儲かっている

Amazon.co.jpのWebサイト

 出版社、書店がともに苦しむ中、独り勝ちしているのがアマゾンジャパンである。『通販新聞』によれば2007年6月期〜2008年5月期の年商は約2200億円で、前年度に比べて37.5%も伸びている。このうち書籍が何%あるのかは不明だが、紀伊国屋書店の約1198億円、丸善の約1025億円よりも多いのは確実で、すでに日本最大の書籍小売業者である。

 また、新古書のブックオフコーポレーションも、年商は右肩上がりで伸びており2008年3月期は約505億円となった。前年度に比べて9.2%増だ。つまり、従来の書籍流通のアウトサイダーにあった通販業者や新古書業者ばかりがもうかっている構図が見える。

 出版業独特の構造として、出版社と書店をつなぐ役割がある「取次」と呼ばれる卸売業大手2社の規模が巨大である点が挙げられる。2008年3月期の日本出版販売(日販)の売上高が6471億900万円、トーハンの売上高は6189億6800万円。この2社で取次シェアの7割を握っているとされる。出版社最大手の小学館と講談社、書店最大手の紀伊国屋書店と丸善がそれぞれ、1000億円台前半の売上高なのだからその5〜6倍の規模である。

 なぜ日販やトーハンが存在しているのかというと、出版社も書店も小規模な会社が無数にある状況下、両者が個々に直接取引をするのは現実的でないという問題があった。また、出版業界には著作権保護の観点から独占禁止法の一部として、定価販売を義務付ける再販制度(再販売維持制度)が敷かれている。なので消費者はどこの本屋で本を買っても、出版社が決めた全国一律同じ値段である。

 しかし、この再販制度は中古本には適用されておらず、その間隙を突いて、リアルでブックオフ、バーチャルでAmazonが伸びてきたわけだ※。

※Amazonは新刊書籍だけでなく、「Amazonマーケットプレイス」として中古本も取り扱っている。

 ブックオフは本の買取において、従来の古本屋が行ってきた文化的価値を考えての査定を一切行っておらず、本の新しさや保存状態といった外面で決める。そこで素人参入が可能なFC(フランチャイズ)での店舗拡大が可能になった。ブックオフは印税を著者に払う必要がない。そのため、出版社の経営苦で書き手に払う金額が少なくなって、著者の生活が苦しくなっても栄える一方なのである。

 さらに出版業界には委託販売という、本来の委託販売とは異なった独特の返品条件付売買制度がある。出版社は取次に販売を委託する時に、返品条件を決めていったん売却する。そこでまず出版社に入金がある。そして書店は一定期間が過ぎて本が売れなければ条件に従って、取次に返却するのだ。

 この弊害として、本全体が売れなくなって経営が苦しくなった場合、出版社は出版点数を増やして、取次からつなぎ資金を得ようとするようになる。だから昨今の文庫・新書のように全体の売り上げが落ちているのに、出版点数が増える現象が起きる。文庫・新書バブルは出版業界の抱える構造の弱点の縮図にすぎないのだ。

 出版社は昨今のように返品率が約4割ともなると、非常に経営が苦しくなってくる。書店も出版される新刊点数が年間約8万点と多すぎてさばき切れず、店頭に本が並ぶ期間が短くなり、小さな書店では置き切れなくなる問題が生じてくる。しかも、品切れの補充が後手に回りがちだ。書店同士で情報共有がなされていないので、消費者はどこに行けば本が入手できるのかも分からない。本がなくて取り寄せとなると、10日前後掛かってしまう。そうこうしているうちに、すぐ読みたい本を入手したい消費者はAmazonに注文してしまう。こういった悪循環が続いているのである。

 また、取次の経営も悪化しているので、今や取次からも再販見直しの声が上がるようになってきた。鮮度が重要な実用本などについては再販期間を時限化して、例えば1年を過ぎると、書店が自由に価格を決められるようにすれば面白い。

 しかし、消費者が書店に行かないのは、むしろ買いたい本がなかった場合の対応が遅いからではないだろうか。

 ドイツ在住ジャーナリストのシュピッツナーゲル典子氏「書籍大国ドイツの出版業界、その流通・経営・制度・人事育成の特徴(メディアサボール、2008年4月4日付)」によれば、ドイツでは110万点の業界共有データベースがあり、24時間以内に注文した書籍が配送される仕組みがあるという。

 地域の本屋と本屋をオンラインでつなげて情報共有し、せめて本の在りかが分かるようにならないものか。神保町では三省堂書店が中心となって、街の本屋がデータを共通する仕組みが提案されており、岩波ブックセンターとはすでに連携している。自社だけで生きていく時代ではなく、新刊書店、古書店を含め、神保町が一体にならないと勝ち残れないというのが、三省堂書店の考え方なのである。

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