コラム
» 2009年03月24日 07時00分 UPDATE

現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”:電子書籍はキャズムを超えられるか?――iPodに学ぶ普及への道 (1/4)

音楽配信事業とよく似た構造を持つ市場でありながら、なかなか普及が進まない電子書籍事業。普及するためには何が大事なのか。電子書籍の妥当な価格や望ましい端末の姿、ファイル形式を検討し、電子書籍の未来を考える。

[森田徹,Business Media 誠]

著者プロフィール:森田徹

1987年生まれ、東京大学教養学部文科二類在学中(4月から経済学部経営学科に進学予定)、聖光学院中高卒。現在、東大投資クラブAgents自民党学生部東京大学裏千家茶道同好会のサークルに所属している。投資・金融・経営・政治・コンピュータ/プログラミングに興味を持つ。日興アセットマネジメント主催「投信王 夏の陣」総合個人優勝、リーマン・ブラザーズ寄付講座懸賞論文最優秀賞。


 前回(の本コラム)では、出版業界の市場構造について取り上げた。「雑誌はともかく、本(書籍)の売り上げが減っているのは単価が低くなっているからで、電子書籍を普及させて印刷・流通コストさえ削減できれば利益ベースでは出版不況を克服できる可能性がある」という内容だった。

 そこで今回は、書籍の一般的な費用構造を分析、電子書籍の妥当な価格を検討した後、普及にはどのような電子書籍端末やファイル形式が望ましいかを考えていく。現在の書籍の何が問題なのか、そしてなぜ既存の電子書籍が普及しなかったのか。皆さまの思考のヒントになれば幸いだ。

 →「活字離れ」はウソ?――本当に本は売れていないのか

書籍の一般的な費用構造

 書籍の費用構造を分析するに当たっては信頼できる参考文献がなかったので、中堅出版社に勤める知人に聞いてみると、下図のような答えが返ってきた。印税10%、外部委託費15%、流通費用33%、出版社取り分42%。場合によって多少の差はあるが、一般的なラインだという。それぞれの費用を個別に見てみよう。

ah_syohiyo.jpg 書籍の費用構造

印税

 著者の印税は7〜10%程度が一般的。印税には2通りの支払方法があり、出荷分だけ著者に支払われる「発行印税方式」(例えば、初版5000部ならば5000部分の印税を支払う形)と、販売実績に応じてしか払われない「実売印税方式」がある。最近では出版不況の中、後者が増加傾向にある。

外部委託費

 執筆・編集以外の作業にかかる外部委託費は、グラフや挿絵の作成やレイアウトなどのデザイン料、紙代・印刷代などが入る。筆者の少ないDTP(DeskTop Publishing)経験から言えば、15%の外部委託費のうち3分の2以上は印刷関連費用だろう。

流通費用

 流通費用は33%だが、講談社や小学館などの大手出版社の場合は30%ですむこともある。これはスケールメリットを生かした価格交渉力の問題だろう。対売上費用で3ポイント削減できるだけでも、利益率は大きく上がる。また、この33%のうち25%ほどが書店取り分で、残りの8%ほどが日販やトーハンなどの出版取次会社(書籍の問屋のようなもの)の懐に入ることとなる。

出版社取り分

 最後に残る42%が本を1冊売り上げたときの出版社の取り分である。知人の話では、この中の35ポイントほどが編集や営業などの固定費(販売管理費)で、残りの7ポイントほどが営業利益になるようだ(大手出版社なら流通費用を3ポイント抑えて営業利益を7ポイントから10ポイントにできるため、営業利益が42.86%も増えることになる)。

 しかし確認しておくと、42%という取り分は消費者への売上額に対する比率であって、出荷額に対する比率ではない。これが在庫責任が販売側ではなく出荷側にある、日本の再販制度・委託販売制度の特殊性である※。

※通常の業種では出荷段階で代金を回収できる(買い切り)。例えば、ヨドバシカメラに並んでいるiPodの在庫はヨドバシカメラ(あるいはApple Japanとヨドバシカメラを仲介する丸紅インフォテックや加賀電子)の棚卸資産であって、電機メーカー(Apple)の棚卸資産ではない。
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