電子書籍はキャズムを超えられるか?――iPodに学ぶ普及への道現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(2/4 ページ)

» 2009年03月24日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

電子書籍の想定費用構造

 書籍の具体的な費用構造が見えたところで、今度は音楽事業をモデルに電子書籍の想定コストを試算してみよう。音楽配信ビジネスは端末で利益を稼いでネットワーク販売はオマケという少々説明を要するビジネスモデルだが、電子書籍ビジネスも同様の流通過程をたどると仮定して流通費用を計算する。

 今や米音楽販売最大手となった「iTunes Store」では1曲ダウンロードする料金は0.99ドルだが、そのうちAppleの取り分は0.30ドルほどだ(PacificCrestのAndy Hargreaves氏試算でネットワーク費用0.05ドル、トランザクション費用0.10ドル、営業費用0.05ドル、残り0.10ドルがAppleの利益)。データ量(ネットワーク負荷)や取引量の問題があるが、やや強引に電子書籍でも“1冊”あたりの流通費用を0.30ドル(=30円)として話を進めよう。これは2007年の紙書籍平均単価1152円(出版科学研究所調べ)の2.60%にあたるから、流通費用は紙書籍の33%に比べて30ポイントほど削減できることになる。

 また外部委託費の項目では、レイアウト代は依然として必要だが紙代はいらなくなる。そのため、前述の経緯から売り上げの15%を占めていた費用を10ポイント削減して、5%ほどにできると仮定できる。そうすると電子書籍の想定コストは次図のようになる。

電子書籍の想定費用構造

 流通費用と外部委託費以外の電子書籍のコストが紙書籍と同一と高めに見積もっても、紙書籍の60%程度の販売価格で電子書籍は流通できることになる。手元にある講談社系のコミックが420円だから電子書籍だと250円ほど、角川系のライトノベルが514円だから電子書籍では300円ほど。2007年の紙書籍平均単価は1152円だから、書店の本がすべて電子書籍になれば平均単価は691.2円ということになる。平均単価が新刊の20%ほどになる古本ほどではないが、検索の容易性や品揃えの豊富さ、配送・取り寄せ待ちのない即時性なども考え合わせれば十分魅力的な価格設定だろう。

 しかし紙書籍の所有感や使用感は捨てがたいし、価格が低い電子書籍の登場で供給量が増えるという面もあるため、現在と全く同じ費用構造・販売戦略になるとは考えにくい。恐らくは、コミックやライトノベルの電子書籍を200円程度に単価設定して販売冊数をかせいで、専門書の電子書籍価格は据え置きといった感じになるのではないか。少年向けコミックの新作が250円、準新作が150〜200円、旧作が100円、“オタク向け”と呼ばれるややディテールの深い作品はこれに50円〜100円上積みするくらい。小説の新作が700円、旧作(文庫本相当)が300円、簡単なマニュアル実用書が700円で専門系の入門書が2500円……といったところだろうか。これならば紙の所有感を捨ててでも、とりあえず電子書籍で読んで、気に入ったら紙書籍をAmazonで買うというスタイルが定着しても感覚的には違和感を覚えない。

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