「活字離れ」はウソ?――本当に本は売れていないのか現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(2/5 ページ)

» 2009年03月17日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

創られた「活字を読まない現代人」像

 まずは出版業界の現況というものに正確なイメージを持ってもらうために、筆者が見聞きした既存の論調を軽くまとめてみよう。その上で、少し……いや、かなりの反論をしていく。

 前述のように出版業界は凋落傾向なのだが、その理由はおよそ以下のようにまとめられる。

直接的要因

  • 本が売れない
  • 雑誌が売れない

背景

  • 携帯電話やポータブルゲーム機など情報端末の普及による余暇時間獲得競争の激化
  • インターネットの躍進による無料情報ソースの拡大
  • 現代人の活字メディアへの忌避

 どれもありそうな話ではある。中でも特に「活字離れ」は、これまで成功してきた大衆メディアが自らの“時代遅れ”のビジネスモデルの“言い訳”に使うには丁度いいのだろう。

 だが、こういったステレオタイプの論調には穴があるもので、今回もご多分に漏れない結果になっている。(ちょっと調べただけで本当に穴だらけだった)

 反論の切り口はいろいろあるのだが、一番キャッチーなところから取り上げよう。実は本は売れている。しかも、ここ数年でみれば確実に成長している。とはいえ、たったこれだけのことを主張するためだけに、読者の方には複雑怪奇な数字の世界に入り込んでいただいた上で、出版業界の特殊な業界構造について説明しなければならない。

出版業界の市場構造

 下のグラフは、出版物として集計される販売物の“金額ベース”での内訳を示したものである。ざっくりといえば「書籍:月刊誌:週刊誌=4割:4割:2割」といったところであろうか。次の販売額推移を見ると「全体的になんとなく減っている」という感じである。しかし、これだけで「本が売れていない」と結論付けてしまうと、恐ろしい勘違いをする。

出版業界の販売構成(出典:出版統計年鑑2008)
出版市場規模推移(出典:出版統計年鑑2008)

 では、下のグラフの販売部数推移を見てみよう。雑誌、特に週刊誌の販売部数の落ち込みが激しい一方で、本の販売部数は2003年に底を打ち、わずかに増加しているのが分かる。実際に2003年に底打ちした書籍部数は、年平均書籍販売部数増加率は1.38%(2003年〜2007年)増で成長を続けている。2007年の推定書籍販売部数である7億5542万冊は、2001年の7億4874万冊を超え、21世紀としては最大の数値である。

出版物の推定販売部数推移

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