チームの機能を極大化させるための3つ目の方法は、裁量権の意図的拡大による自己啓発促進である。
「任せられるものは全て任せます」と福原氏は言うが、仕事を丸投げするわけではない。あくまでも、スタッフの挑戦と成長を意図した裁量権拡大である。
同社では、たとえば、店長になりたい人は自ら立候補する。そして、たいていの場合、その希望通り、店長に就任する。もちろん、本人にとっても初体験であるし、実力的に十分でない場合もあって、なかなか思うような成果が出ないこともある。そういう場合には、同社として、放置することもなく、問題解決の答えを教えることもしない。どうすればその状況を脱却し得るか考えるヒントを与えるなどして、間接的にサポートするのである。
そして、来店客からの感謝の念など、具体的な成功体験を得ることで、大きな自信が形成され、人間的にも一回り大きくなってゆく。また、こうした成功体験は、本人の意識変革を促進するので、経営理念に対する理解・共感が深まるという効果も期待できるのである。
豚の大地グループ長 兼 新宿店店長の日高陽介氏も、こうして成長を遂げてきた一人。決してはじめから順風満帆だったわけではないし、周りと衝突したり、悩んだりしたこともあったというが、「これからも会社の中で成長し、貢献したいです」とすこぶる前向きだ。
同社のシステム/プロセスには、このような裁量権の拡大の仕掛けが、まさに網の目のように張り巡らされていて、すべてのスタッフがさまざまな機会に、挑戦と成長を実現できるようになっている。
若いアルバイトが店舗を代表して、全社的なコンファレンスに出席し、店舗の経営に関して、プレゼンテーションする機会もある。まさに全員主役型のシステム/プロセスであり、したがって、コミュニケーションのあり方も、全方向型であることが基本になっている。上も下もなければ内も外もない、仕事仲間との率直なコミュニケーションである。
売上の目標設定も各店舗が自主的に設定するようになっているし、日常業務の段取りについては一切マニュアルが存在を効かせて決定できるようになっている。「豚の大地」新宿店のアルバイト、原田基龍さんは言う。他の飲食店と異なり、自分で考え、行動できることが楽しいと。
こうした裁量権の拡大の成否は、実は「失敗へどのように対応するかにかかっている。スタッフが失敗した時の対応が“処罰”が基本であれば、誰も挑戦しようと思わなくなるだろう。失敗を“許容”するなら、まだ多少は挑戦への意欲もわいてくるが、積極的に挑戦させるためには、むしろ失敗を“奨励”する必要がある。KUURAKUグループでは、まさに失敗を奨励している。失敗もまた成長の機会。失敗したスタッフには、再起を賭けるチャンスをきちんと与えているのだ。
社員の失敗は、自社の経営に対して、実際損失を与える場合がある。しかし福原氏は、実際損失を懸念するのではなく、あくまでも機会損失を懸念するスタイルである。
チャンスを見抜き、それを掴み取ろうとする感性を評価する。どんな人材でも、成長することを重視する――だからこそ、2007年度の新卒者採用では、たった1回の会社説明会で「入社したい人は挙手してください」と呼びかけ、挙手した全員に内定を出したのである。
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