「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で目標に向かって邁進する人がいる。会社の中にいるから、1人ではできないことが可能になることもあるが、しかし組織の中だからこそ難しい面もある。
本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現するビジネスパーソンをインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。
10〜20代の若い社員やアルバイトをどう活用するか? 若い世代の人材活用に悩む企業が多い中、注目を集めている中堅居酒屋チェーンがある。「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元屋」「焼酎泡盛 豚の大地」などの店舗を展開する、千葉県発祥のKUURAKUグループだ。
年間離職率5%、国内外の全18店舗で黒字経営を実現。2007年度「居酒屋甲子園」でも、覆面調査員による3カ月間に及ぶ調査の結果、「くふ楽本八幡店」は全国739店舗の中で、ベスト6入りを果たしている。
これを実現してきたのが、オーナー経営者の福原裕一氏(43歳)だ。前編では同社の経営理念を、中編では、同社の戦略を、価値創造という視点から検討した。
そこでこの後編では、同社のシステム/プロセスが、いかにして組織能力を高め、戦略を実現しているかについて見ていこうと思う。
KUURAKUグループの経営システムや業務プロセス、そして組織能力の特性を、下の表にまとめてみた。表の左側の項目が、筆者がKURUAKUグループの特性と考えるもの。右側が、現代の日本企業にしばしば見出される点である。
− | ポイント | KUURAKUグループ | 多数の企業 |
---|---|---|---|
1 | 基本的人間観 | 人間性善説 | 人間性悪説 |
2 | リーダーシップ | 仕事仲間に対するサポート | 上司と部下の命令服従関係の行使 |
3 | 組織形態 | フラット型 | ピラミッド型 |
4 | 最小機能単位 | 自立・自律・自己完結型チーム | 階層構造の中の各部門 |
5 | 経営理念の伝播・共有の促進 | Learning、Living、Leisureの共有化 | 社長室に掲示、朝礼で唱和 |
6 | 情報共有 | 現場情報の全社的共有化 | 階層ごと、部門ごとに情報遮断 |
7 | 責任・権限の委譲 | 裁量権を意図的に拡大することにより自己啓発を促進(=Empowerment | 責任は大きく、権限は小さい |
8 | 失敗への対応 | 失敗の奨励 | 失敗を処罰 |
9 | 売上目標設定 | 各店舗が自主決定 | 天下り的なノルマ |
10 | 日常業務の段取り | 各店舗が自主決定 | マニュアル依拠 |
11 | コミットメント | 全員主役型 | 指示待ち型 |
12 | コミュニケーション | 全方向型 | 上から下への一方通行型 |
13 | 人間力の回復・醸成 | ハッピー&サンクス | 地獄の特訓 |
− | ポイント | KUURAKUグループ | 多数の企業 |
---|---|---|---|
14 | 組織メンバーの基本姿勢 | 有極性×創発性 | 糸の切れた凧×やらされ感 |
15 | 生き甲斐 | 個人と組織が輝くこと | 組織の目的・目標とは無縁の自分の趣味 |
16 | 職場の位置づけ | 「自己革新→自己実現」の場 | 給料獲得の場、世を忍ぶ仮の姿 |
17 | お客との出会いに対する姿勢 | お客の喜びは自分の喜び | 十把ひとからげのありきたりな対応、単なるカモ |
18 | 私とあなたの相互関係 | あなた(=仲間)がいてくれてこその私 | 唯我独尊、自分は自分、他人は他人 |
19 | 集団特性 | 異なる個性の融合したプロ集団 | 各個人がタコつぼ化、うつの人が集まる集団 |
20 | 目的・目標への取り組み | 目的や目標を完遂する喜びを共有 | 目標未達でも放置し、諦めムード |
以上20項目、KUURAKUグループの特性を挙げた。実はこれらのポイントは、成功企業だけが実践できているとされる内容ばかりである。
驚くべきことだ。勉強熱心な日本の多くの経営者や経営幹部は、本で読んだり、セミナー・講演会で学んだりして、これらの項目については、みな知識としては知っている。しかしたいていの場合、分かっちゃいるけど古いやり方から脱却できないか、または、大胆に自社に導入しようとした結果、社内が大混乱に陥って失敗するか、のいずれかだ。
KUURAKUグループでは、なぜこれらのポイントを成功裏に導入・運用できているのだろうか?
福原氏はこう述べる。「『想いの強さ』の違いだと思います。『人のために!』というのがすべての前提としてあって、そのためには一体どうしたら良いのだろうか、という切実な心情の中で導入・運用するのが基本だと思うのです。そういう手法が流行だからとか、儲かりそうだからとかいうことでカタチだけ真似たって、うまくは行かないと私は思います」
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