「やるぞ!」「勝つぞ!」とマックスのテンションに持っていこうとしたら空元気で終わった――という経験はありませんか? ここぞ、というタイミングでテンションを上げるには、まずテンションを低くしておくことが重要なのです。
前回は混同しがちな「テンション」と「モチベーション」の違いを明確にした上で、内発的モチベーションの重要性をお話ししました。今回はテンションをどうコントロールするか解説します。
モチベーションと違い、テンションは上げ続けることが大事なのではありません。それどころか、むしろテンションは、下げること、オフにすることが大事なのです。モチベーションは精神の問題なので、ずっと高いまま持ち続けてほしいのですが、テンションは体の問題なので、スイッチのオン/オフを使い分けることが必要です。
ここで、私が関わったケースをお話ししましょう。2007年度の全国大学ラグビーで日本一になった、早稲田大学ラグビー部の中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)監督のメンタルコーチングをさせていただいた時のケースです。
中竹監督によると、強い相手と試合をしている時は選手のテンションが非常に高いそうです。モチベーションも、もちろん高い。ところが、強豪との対戦が一段落して、相手が格下のチームになった途端、テンションが下がる。それと同時に、モチベーションも一緒に下がってしまうといいます。
実は、それはやむを得ないことなのです。毎日、練習で激しい体のぶつかり合いをしているので体は疲れるから、100%テンションを高めなくても勝てるというのが分かっている場合、テンションが下がるのは仕方がない。そして同時に、それでも勝てると分かっているので、勝ちたいというモチベーションも下がります。
監督としては、選手の体がいつもギンギンに緊張していると、大事な試合で疲れてしまうから、テンションは下げさせてあげたい。でもモチベーションは下げたくない、となりました。そこで選手には次のような発想で臨むよう、持っていったのです。
まず100%ハイテンションでプレーせずに、できるだけ体は休ませるローテンションにしておく。そして、格下のチームに勝つことが目的ではなく、大学日本一を決める決勝戦で勝つことが目的だということを理解させました。その上で決勝で勝つためには、格下のチームとどういう試合をするのがいいかと発想してもらうようにしたのです。
そうすると、100%ハイテンション時のような圧倒的な勝ち方はできませんが、例えば、走れば突破してしまえるのに、わざとそこでパスを試してみるというような、この機会でしかできないような“練習”ができます。もちろん思ったように得点できません。それでも相手に点を取られたとしても、負けるほどではない試合に持ち込めるのです。
こうして、格下のチームとはできるだけローテンションで、かつ高いモチベーションで試合をしました。結果的に、圧倒的な勝利ではなかったけれど、選手にとっては高いモチベーションをキープしながら、体は休めることができました。
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