そしてこの「欠乏感が考える力を与える」という性質が、「専門知識を教える技術」に関してどんな意味を持っているかというと、簡単に言えば、
となります。要するに、1から10まで「教えてあげて」いたら、学習者は与えられることに慣れきってしまい、欠乏感を感じる暇がないのです。
この話は実は連載第14回でも少し触れていました。
第14回 「不安」は、自分で決断することを通じてのみ解消できる(3/4)
思考プロセスを自力で切り開いていけるようになることが大事なので、手取り足取り何でも答えを教えてしまってはいけません。
一方、連載第2回では「情報量」についてちょっと違う角度から書いています
第2回 情報量は多い方が覚えやすい
意味のある情報の場合、その「意味」を構成する最低限の情報量は必要なのです。その「意味を構成する最低限」を割り込むほどに情報を削ってしまったら、かえって分からなくなってしまいます。
第2回では「多い方がいい」、今回は「少ない方がいい」と、反対のことを主張しているようですが、それぞれシチュエーションが違うことに注意してください。
図1の(a)のように、Pを核としてXYZが関連付くような関係があるとき、Pを削ってXYZだけにしてしまうとバラバラになって相互の関連が分からなくなり、かえって「覚えにくく」なるというのが「情報量は多い方が覚えやすい」ということです。
一方、「情報量は少ない方が考えやすい」というのはこういう状況です。
図2ではXYZを結ぶ核になるPのところが空白になっています。これが「欠乏」のポイントなのです。こう書かれたら誰でも「真ん中の空白はなんだ?」と気になるはずですね。気になったときに人は質問したり、調べたり、考えたり、と「自発的な行動」をとります。こうした自発行動を促すためには情報量は少ない方がよいのです。「たくさん教えても消化しきれないから教える量を減らす」のではなく、「自分で考えさせるために情報の欠乏状態を作り出す」のであるということに注意してください。
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