おサイフケータイの使える日本から考えれば「何をいまさら」感のあるかもしれないApple Payだが、画期的なポイントが3つある。
いくら革新的な技術やサービスであっても、利用できるインフラが存在しなければ使いようがない。折しも、米国では2015年までに各店舗でICチップ入りのクレジットカード(「EMV」と呼ばれる)への対応が法令で事実上義務化されることもあり、POSやクレジットカードの決済端末の刷新が急速に進んでいる。「これを機会にNFC対応の決済端末を導入しよう」という気運もあり、大手チェーンを中心に、ここ数年で全米何千店舗もの端末が一気にNFC対応のものに置き換わった経緯がある。
Appleは「(Apple Payは)全米22万店舗で利用可能」とうたっている。これは誇大広告でもなんでもなく、ちょうどインフラの普及が進んだタイミングでApple Payによるモバイルペイメント参入を果たしたことによる。
Apple Payによる決済では、iPhoneを読み取り端末にかざす際に、指紋センサーであるTouch ID上に指を載せておくだけで決済が完了する。操作ロックを解除したり、特定のアプリをあらかじめ立ち上げておく必要はない。
Apple Payは、ユーザーのクレジットカードやデビットカードを利用して決済を行うが、通常、カードで決済をするときには、本人確認のためにPINコード入力や、サインが求められるのが一般的だ。だがApple PayではTouch IDを使って指紋認証を行うことで、このプロセスを省いている。
以前に発表されたGoogle Walletをはじめ、現在世界で出回っている“モバイルウォレット”と呼ばれる類似サービスでは、決済前に端末ロックを解除したり、決済アプリをPINコードを解除した状態で待機させておく必要があった。こうした非常に煩雑な使い勝手とは対照的だ(日本でも、おサイフケータイを読み取り機にかざすだけで使えるのと少し似ている)。
今回のApple Pay発表で筆者が最も画期的だと思ったのはこの点だ。一般に、クレジットカード情報は決済サービス事業者、この場合はAppleのような事業者が保持していることが多い。
だがApple Payでは、クレジットカード情報はすべてユーザー自らの手でiPhoneに登録し、iPhone内の「セキュアエレメント(SE)」と呼ばれる専用のセキュリティチップの情報領域に記録される。この情報について、Appleはいっさい関知しない。例外は初期セットアップで「iTunesサービスに記録されているクレジットカード情報をコピーしてきた場合」のみで、「○○という店で△△という商品を××円で購入した」といった情報を含め、Apple Payを使って行われる決済にAppleはノータッチだ。また、Apple Payを使って決済する場合、小売店に直接クレジットカード番号等が送信されることはなく、端末に紐付けられた専用の管理番号でやり取りが行われる。「(Appleを含め)先方に個人情報を渡す必要がない」「決済の秘匿性が保たれる」という2点が、個人情報の取り扱いや情報漏洩にシビアな昨今、非常に重要な意味を持っている。
「決済状況も把握できないのにAppleはどうやって儲けているの?」と気になる方もいるだろう。英Reutersなどの報道によれば、現在Appleは(クレジットカードやデビットカードを発行している)銀行との交渉で「銀行側が手数料をAppleに支払う」形を模索しているようだ。Appleは把握していなくても、銀行はユーザーの口座情報から決済情報まですべてを把握しているわけで、このうちApple Payを通じて行われた決済額の何%かをAppleに手数料として収めることになる。
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