フランスの列車事故は他人事でない――日本にも警鐘を鳴らしている杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)

» 2013年07月19日 06時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
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赤字鉄道を経営面で救う特効薬「上下分離」の落とし穴

 上下分離によって線路保有会社と列車運行会社が別れた場合、列車運行会社は旅客サービス面で売上アップのチャンスはいくらでもある。列車の運行本数を上げすに、運賃やサービスで付加価値をつけて収益を上げられる。しかし、線路保有会社はどうか。線路使用料の売り上げに限界がある以上「利益を増やそう」「債務を繰り上げよう」とすれば、コストダウンするしかない。つまり、保守費用の削減につながっていく。

 この上下分離と安全性の低下については、欧州各国の鉄道で先例がある。特に英国では上下分離後に線路不良を原因とする事故が多発した。そこで欧州の鉄道関係者の間では、日本のJR方式の「上下分離ではなく、地域分割方式とし、列車運行会社が鉄道に関して全責任を追う」という枠組みの評価が高いという(関連リンク)

 それでも日本では、赤字ローカル線を救う切り札として「上下分離」が特効薬のように言いはやされている。線路を自治体の保有とし、鉄道会社は列車運行に専念する。これで鉄道会社は線路にかかる費用から開放され、赤字傾向を改善できる。ただし、線路保有会社は線路使用料しか売り上げがない。自治体が線路を保有した場合、赤字の場合は税金からの補てんとなる。

 線路保有会社が第三セクターや民間企業となった場合、利益を上げる、あるいは赤字を減らすにはどうするか。コストダウンに向かうだろう。コストダウンすなわち保守費用の削減であり、これは安全性の低下に直結する。上下分離施策をとった場合、それを監督する省庁は、線路保有会社が安全面を怠らないように監視し、安全対策投資への支援制度などを講じなくてはいけない。

 経営面のみで赤字か黒字かを論ずれば、確かに上下分離は特効薬である。しかし、その弊害として安全性への影響がある。これだけは心得ておく必要がある。

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