雪は降らなかったけど、JR東日本が間引き運転を決めた理由杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)

» 2013年02月15日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

京急電鉄は乗客もプロ

 2005年に地下鉄パニック映画『交渉人 真下正義』が公開された。この中にダイヤ編成担当者「線引屋」が登場する。彼は混乱するコンピュータシステムを尻目に、印刷されたダイヤにペンと定規で線を引き、列車の変更を指示していく。そして見事にダイヤを復旧させる。

 映画ならではの誇張された人物像と思うかもしれないが、こういう人材は実在する。コンピュータより状況判断と洞察力に優れ、ダイヤを熟知する職人。手書きでダイヤを作成した時代は大勢いた。いまもその存在をうかがわせる鉄道会社がある。京急電鉄だ。

 京急電鉄のダイヤ修復過程は、鉄道ファンにとって楽しみでもあり尊敬の対象でもある。トラブルに対して楽しみとは失礼な話だけど、私も含めて鉄道ファンは鉄道の非日常の光景を楽しむという困った生き物だから仕方ない。そんなことより、何が尊敬されているかというと、通称“行っとけダイヤ”の発動である。

 京急電鉄の場合、ダイヤが乱れると刹那的に列車を送り出す……ように見える。例えば、最も速い「快特」として品川駅を出た列車が、途中の駅で特急になったり各駅停車になったり。終着駅の変更もしれっとやってのける。「線路が空いているから、この電車はとりあえず快特で行っとけ」「先行車が詰まっているから各駅停車で行っとけ」と、どんどん列車を送り出していく。これが通称“行っとけダイヤ”だ。

 なぜこんなことをするかといえば、起点の泉岳寺駅やターミナルの品川駅で、列車を待機させるヒマがないからだ。横浜方面へ折り返す列車がある一方で、都営浅草線からはどんどん列車がやってくる。足止めすれば都営浅草線が詰まる。その混乱は京成電鉄まで波及する。影響を小さくするために、品川駅にいる車両は、どんどん発車させなくてはいけない。

荒療治でダイヤを回復する京急電鉄

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