街から生気が消え、音さえ聞こえない世界。B級映画は、1時間半程度の間に街を救うヒーローが現れたり、悪魔が退治されることで街が復活する。
だが、フロントガラス越しに見える実際の小高の街は、依然として静まり返っていた。映画よりも皮肉で、残酷な出来事が、目に見えない「20キロ圏内」という規制のせいで起こってしまったのだ。
街のメーンストリートに来ると、津波で被害を受けた海岸地帯とは全く違う光景が目に飛び込んできた。地震によって倒壊した家々や商店があちこちにある
大震災当日、小高区は震度6弱を記録した。古い家屋はそのときに倒れてしまったもののようだ。
このエリアでは、何組かの家族連れと会った。倒れた建物を見上げる人、慎重に建物内部に入り、荷物を出す人。例外なく、彼らは無言だった。
あれから1年以上の時間が経過し、ようやく地元に戻ったのだろう。あの日から全く変わらない現実を前に彼らは言葉が出ない、そう感じた。
市街地の奥に向け、ゆっくりとクルマを走らせた。傾いた家の前に、中年女性が立っていた。クルマを停めた。話を聞いてみようと窓を開けた。だが、女性は家の2階に視線を固定させたまま動かない。目を見ると、真っ赤に充血していた。
この家に住んでいたのか、あるいは嫁ぎ先から実家を見に来たのかは分からない。
写真を撮らせてもらい、家の中も見せてもらえたら。できれば話も聞いてみたい。そう考えてクルマを停めたのだが、中年女性の口元がにわかに震え始めた。
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