大糸線の終点は糸魚川。ここから北陸本線で直江津へ。583系寝台特急電車を改造した419系の普通列車に乗った。583系は昼間は向かい合わせ座席、夜は3段式寝台車になる車両だった。したがって他の特急電車よりも天井が高い。419系は背の高い中間車に運転台を取り付けたため、その形から「食パン電車」とあだ名が付いていた。キハ52も419系も老朽化しており、引退は確実と言われていた。どちらも今は走っていない。今となっては貴重な体験だった。
直江津は北陸本線の終点である。日本海岸の線路はさらに続き、ここから先は信越本線だ。信越本線は、東京からだと山越え路線のイメージが強い。しかし、直江津から先は全国屈指の沿岸風景を進む。列車は新潟行きの快速「くびき野」。特急型車両を使い、停車駅も少なく、俊足である。リクライニングシートで冷房も効く。そんな快適な旅で私は上機嫌だった。青海川駅は海岸線に近い駅として有名だし、その隣の鯨波駅は海水浴の名所だ。この時期は熊谷駅から鯨波駅を経由して柿崎まで行く「マリンブルーくじらなみ」という臨時快速列車も走っている。車窓からは青い海と、夏を楽しむ人々の賑わいが見える。
この時の私の旅の目的は越後線だった。越後線は信越本線の柏崎駅から分岐して新潟に至る83.8kmの路線だ。路線名のとおり米どころの越後平野を走る。1年前に乗ろうとしたら、大地震が起きて信越本線と越後線が不通になってしまった。越後線の運行再開まで1ヶ月、信越本線は2ヶ月くらいかかった。被害は路盤の消失や液状化、がけ崩れなどだった。両路線とも、それらの災害再発を防止する工事が半年ほど続いた。私は乗るタイミングを逃してしまい、1年たってやっと訪れる機会ができた。
私はいったん柏崎駅を通過して長岡駅へ向かった。越後線の運行本数が少ないので、長岡で駅弁を買って、また柏崎に戻ってきた。それでも次の発車までかなり時間がある。こんな時は街を歩こう。車窓を眺める旅は運動不足になってしまう。だから乗り継ぎ時間がある場合はなるべく散歩する。観光地図の看板を眺めると、ここから海までは1キロメートルとちょっと。海岸公園があるようだ。そこまで歩いて駅弁を食べよう。ちょうどいいピクニックだ。太陽が照りつけてかなり暑いが、海と公園の緑があれば涼しいだろう。
ここまでは、私にとってはいつもの楽しい旅だった。駅前商店街はひっそりとしていたけれど、平日の日中の田舎町としては珍しくない。約20分で海沿いの道に出た。海水浴場は入り口で席料を取る仕組みで、泳ぎもしないのに入っても仕方ないと当たりを見渡すと、柏崎アクアパークというきれいな建物があった。きっと観光施設だろうとそばに行ってみたけれど、平日の日中というのに閉館している。広場には重機も入っている。看板を見ると、ここは観光施設というよりも屋内プールで「水の体育館」らしい。夏は海があるから、この間に改装しているのだろうか。
ならば予定通り海岸公園に入ってみよう。芝生の広場の中央に小道があって、気持ちの良い散歩道だ。しかし海岸公園というのに海は見えない。海側に小山があって、それを超えないと海岸に出られない。その道の入り口に立ち入り禁止の黄色いテープ。別の入り口を探すと、そこも立ち入り禁止。どうしても海には行けない。夏休みの観光シーズンというのにこれはひどい。そして暑い。
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