障害のある人が働く……このことを考えてみた吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年10月29日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

それぞれの違いを認め合う

 法律によると、民間企業の法定雇用率は1.8%。これは常用労働者56人以上で1人の雇用が義務づけられる計算となる。例えば、常用労働者1000人の企業は18人以上の障害者を雇用する必要がある(1000人×1.8%=18人)。これを達成しない企業には、厚生労働省が雇用計画の提出を求めたり、未達成分に相当する納付金を徴収する。

 「ハローワークなどの公的な機関は未達成の企業に対し、厳しく指導している。しかし、障害者を採用した後についてはほとんどふれない。だから職場になじむことができず、辞めていく人が絶えない。これもまた、“数ありき”といった姿勢の悪影響」だという。

 矢辺さんの目には民間企業や公的機関、社会が障害者を理解しようとする姿勢が足りないと映る。それぞれの違いを認め合う、そこに本来のダイバーシティ(多様性)があると考えている。

その企業らしさが感じられる雇用

 矢辺さんは学生時代からこの仕事に力を注いでいるが、その理由の1つに双子の妹の存在がある。2人とも知的障害なのだという。時折、感情をコントロールすることができないことがあるようだ。

 「小さいころ、妹たちは思った通りにならないと、感情をおさえることができないことがあった。外でもかんしゃくを起こし、大きな声を出したりすることもあった。そのたびに、周囲の人は僕たちを奇異な目で見ていた」

 淡々と振り返るその表情に暗さはない。今は成人して働く妹たちのことを気づかいながら、明るく語る。「2人には、こういう仕事に関わっていることを話していないですね」と苦笑いをする。それくらい、障害のある人の支援は当たり前の仕事だと思っているようだ。

 矢辺さんはこれまでに多くの障害者と会ってきた。そのような場を通して、企業が障害者雇用に求めていることを伝え、その対策、ときには面接での受け答えの仕方、履歴書の書き方などを教えてきた。

 こういった手ほどきを受けることで、希望の会社からより早く内定を得る人もいるという。しかし現在は不況の影響もあり、30〜40社受験してもなかなか内定が得られない人もいるようだ。

 「法定雇用率を達成することに重きを置きながらも、人事部は本当に戦力になるかどうかと冷静に受験者を観察している。安易な採用はしていない」と企業の“冷徹な論理”も見抜いている。

 面談をしてきた人の中には、相手の意図を読み取るコミュニケーション能力が弱いケースが目立つという。職場に溶け込むことができないために、転職を繰り返すケースもある。「ハンディがあることに負い目を感じ、価値観の違う人と積極的に話してこなかった。だから、自己表現を苦手としているのかもしれない」

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