障害のある人が働く……このことを考えてみた吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年10月29日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


矢辺卓哉さん

 「多くの企業は、障害者雇用の法定雇用率を達成しようとはしている。そのことは評価されていいと思う。しかし障害のある人が採用された後、実際に職場で能力発揮のための配慮がなされているとは言い難い」――。

 障害者雇用に関わる矢辺卓哉さんは、穏やかながらもはっきりとした口調で切り出した。現在は、障害者の就職や転職を支援する企業に勤務する。

 矢辺さんはこれまで5年間にわたり、主に社員数300人以上の中堅・大企業の人事部に出向き、採用ニーズなどを聞き取り、それに見合った障害者を紹介してきた。1000社を超える企業と接触をしてきただけに、その実情を詳細に把握している。

 取材の最中、矢辺さんは「健常者の採用と障害者の採用は全く違う論理で動いている」と繰り返した。健常者の採用は新卒であれ中途であれ、通常は営業部など現場の部署でこのような人材が欲しいといったニーズや経営方針により進められる。そのもとで採用が行われるので、人事部も現場も内定者を快く迎え入れる。

 しかし障害者の採用には方針などがあまりないという。採用された障害者は現場に配属されても、歓迎されないケースが少なくないようだ。

 矢辺さんは、高ぶる感情を押さえこむかのように一層、明確な口調で話した。

 「人事部から言われて、現場の管理職は納得しないままに採用が始まる。だから『障害者をなぜウチの部署で受け入れるのか』と考えているケースがある。障害のある人が働きやすいように配慮する意識も乏しい」

 ある企業では耳が聞こえない人に対し、同じ部署の人が「なぜ電話に出ないのか」といった態度をとったこともあったという。そのことに対し、採用の窓口となる人事部の反応が鈍い企業は多い。人事部は、障害者を雇い入れて法定雇用率を達成した時点で、“企業の社会的責任”は遂行できたと満足し、その問題を改善しようとはしていない。

 すべての企業ではないと前置きしながらも、「はじめに“数ありき”といった姿勢で採用をしていることが問題の原点。特に大企業は数字という大義名分がないと、積極的には雇わない」と語る。

 その場合の数とは、前述した法定雇用率を意味する。障害者の雇用の促進を図ることを目的とした「障害者の雇用の促進等に関する法律」があり、常用労働者全体のうち、障害者をこのくらいの比率で雇いなさい、といったことが定められている。

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