眼の専門家に聞く、LEDディスプレイから出る「ブルーライト」は何が悪い?(1/4 ページ)

» 2012年06月01日 15時00分 公開
[Business Media 誠]

 最近、PC作業から目を保護するために、「ブルーライトカット」機能をうたうメガネが話題となっている。ブルーライトとは、可視光線のなかでも波長が短い、380ナノメートルから495ナノメートル前後の光を指し、バックライトにLEDを使う液晶モニターから多く発せられているという。

 このブルーライトとは、目や人体に対してどのような影響を与えるのか。5月26日、眼科医や医療分野の専門家らで設立された「ブルーライト研究会」の第1回発表会が東京・大手町で開催された。眼科に関する専門家向けの発表の中から、いくつかの講演を紹介したい。

ブルーライト研究会

なぜ「ブルーライト研究会」が必要なのか?

ブルーライト研究会の代表を務める慶應義塾大学の坪田一男教授(医学部眼科学教室)による開会の言葉。

ブルーライト研究会 坪田一男教授

坪田 いま、PCなどのデジタル機器が、ものすごい勢いで入ってきています。うちのお袋は82歳なんですが、最近では、iPadとiPhoneを使いこなしているわけです。それで「目が疲れる」って。「そりゃあ、お袋、そんなにずーっとやったら目が疲れるよ」と。

 そういう時代がやってきています。うちの子ども達もずっと使っていますし、うちの医局員たち、先生方も1日に8時間以上使っている人もいる。特に最近は新しいLEDというものがでてきまして、これが実は眼精疲労のすごく大きな原因になっています。

 テレビやVDT(Visual Display Terminals、PCディスプレイなどの総称)の画面は、「明るければいい。明るいほうがいいんだ」と思っている人もいっぱいいらっしゃいます。でも、実は明るいだけでは、その中にはブルーライトがいっぱい入っているわけで、眼精疲労につながる。

 やはり適切な光、ブルーライトが少し抑えられたものが目にとって良いということが少しずつ分かってきました。これが1つ、大きな流れとしてあります。

約10年前に、ブルーライトに影響を受ける新細胞が見つかった

坪田 それからもう1つ、サイエンスの世界。ぼくたちの目の情報処理には、桿体(かんたい)と錐体(すいたい)といって、暗いところでも見える光受容体と、色が見える光受容体とがあります。例えば、この部屋を暗くしてしまうと色はなくなってしまう。でも、形は見えている。これは難しい言葉でいうと、桿体という明るさを認識する受容体は働くけど、色のほうは働かない。

 これまで、この2つがあるといわれていたのですが、今から10年くらい前、2002年ぐらいにですね、メラノプシンを含有しているガングリオンフォトレセプターという新しい細胞が見つかりました。これが何かっていうと、非常に面白いことにブルーライトを感受する光受容体だったのです。

 そして、それが何をしているかっていうと、見ているわけじゃなくて生体リズムに関与している。視覚情報処理というよりは生体をコントロールするために使われているということが分かってきました。

 今から10数年前に、面白い論文がハーバードからでていました。失明して目が見えなくなった人に、何か問題があったら治療法として目を取ってしまう。でも実は見えない人の目をとってしまうと睡眠障害になるっていうのが『New England Journal Ways』に出ていたんですよ。

 「これ、何でだろうな」って、ずっと不思議に思っていました。今から考えてみれば、その論文には書いてありませんけど、メラノプシン含有の、いわゆる視覚情報とは関係のない、サーカディアンリズム(概日リズム)に関係するほうの神経は残っていたと解釈されるのではないか。

なぜ太陽の光を浴びると時差ボケが解消するのか?

坪田 みなさん、海外旅行に行かれることもあると思いますが、時差の解消のためには太陽の光を浴びたほうがいいよといいますよね。じゃあ、なんで太陽の下に行かなければいけないのか。

 これがブルーライト。それもかなり強い光を、昼間浴びるってことがすごく重要で、それによって夜、寝られる。ですからブルーライトにはいい面もあります。逆に、1日中、PCで定常的に浴びている。例えば夜までずっと浴びていると、今度はサーカディアンリズムが狂ってくる。

 みなさんも体験があるかと思いますが、PCをずっとやってるとベッドに行ったときに寝付けない。「頭を使っていたから」と思われるかもしれないけど、ブルーライトによってサーカディアンリズムが狂うためになかなか寝付けないのかもしれない。これこそが、ブルーライト研究会が設立された意義なんです。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.