眼の専門家に聞く、LEDディスプレイから出る「ブルーライト」は何が悪い?(4/4 ページ)

» 2012年06月01日 15時00分 公開
[Business Media 誠]
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ブルーライトは睡眠に影響を与えるのか?

杏林大学の古賀良彦教授(医学部精神神経科学教室)が「良質な睡眠と生体リズム」と題する講演を行った。

ブルーライト研究会 古賀良彦教授

古賀 ご紹介ありがとうございます。ブルーライトによって睡眠にどのくらいの影響があるのかということを調べてみました。ここで生体リズムと見栄をきっているのですけども、実際には睡眠をある簡単な機器でモニターした結果です。

 オリコン・コミュニケーションズの調査データがあります。一般のオフィスワーカーの方が、目に疲れを、まあ眼精疲労ですけども、どれくらい感じられているかというのをお調べになられた。こういった調査ですので、当然、多数が「眼精疲労がある」とお答えになるということで、94%という結果です。このうち「たまに疲れを感じる」という人が半数ですので、これは日常の、われわれの印象とだいたい合っているだろうと思っております。

 じゃあ、何で疲れるのか。多数あるアンケートの項目のなかで「PC」とかですね、「運転」が1つ間に入るんですが、「ゲーム」とか「スマートフォン」というように、デジタル機器でモニターの付いているものを見ると強い疲れを感じるという結果でした。

 冒頭で、坪田先生から「医局員が8時間みている」という話がありました。PCをオフィスにいる女性がどのくらい見ているかということですが、女性には事務職の人が多いわけですけども、どうもあれこれ足してみると、会社と家とほかのことを含めまして、だいたい11時間くらい、こういったデジタル機器のモニターをご覧になっている。そうだといわれればそうかもしれませんが、やや驚くデータかもしれない。

 こういったことをバックグラウンドとしまして、例えばPCとか携帯、スマホを含むデジタル機器のモニターを長時間みるということによりまして、ちょっとおおげさな言い方ですけども、何か睡眠に影響を与えるのではないかと考えられるわけです。

睡眠不良が何を引き起こすのか?

古賀 実際にある場面を想定しまして、夜暗いところで、しかも眠る前にブルーライトを浴びるということが、睡眠に何らかの影響を与えるかどうかということを測定してみたというのが今日の話です。

 睡眠の量とか質が低下するとどうなるか。一般によく考えられているのは、当然、仕事という面では集中力や作業効率が下がるであろう。メンタル面ということでは、これは情緒が不安定になるといったこともあろうかと思います。

 先年、私どものやった調査によれば、少なくとも軽度の短期不眠があると体重が増えます。また、よく知られているとおり、7時間寝る人が一番長生きするんだというようなデータもあります。さらに、これも私どもの調査ですけども、女性の場合は肌のつやだとか、くすみということも睡眠と関係があるというデータもあります。

 こんなことを背景としまして、いわゆるスマホのモニターから発せられるブルーライト、これが睡眠の質というか睡眠にどのような影響を与えるかということを調べてみました。

アンケートと腕時計型の測定機器で睡眠調査

古賀 実際の方法ですが、お休みになる前にスマホのモニターを1時間見てもらいました。そして、1つはアンケートをとった。アンケートは、朝、目が覚めたときに、その前の夜というか睡眠のことを聞きました。これはごく簡単なものにしました。

 「何度、目が覚めましたか」「寝付きはどうか」「よく眠れましたか」「朝、すぐに起きられましたか」「起きたけど、気分はどうか」「体の疲れはないか」。目に関しては眼精疲労とか充血、クマはないかということを毎朝こたえてもらいました。

 もう1つはアクティグラフという比較的簡便なかたちで睡眠の状況をみる装置がありますので、これを利用して測定しました。アクティグラフは、腕時計に見えるわけですけども非常に優れた装置でして、簡単かつ三次元方向の微細な運動をモニターできます。

 これを利き手と逆のほうに装着して、お風呂に入っているとき以外は一日中これを着けてもらう。一番いい面は腕時計と同じなので装着していて何のストレスもないということで、睡眠の様子をストレスなくモニターできます。

 ようするに1日の行動量といったものを測定するものです。多数のいろいろな変数といいますか、睡眠の要素を測定できるわけですけども、今回は時間の都合ということで、どれくらい睡眠がとれたのかということと、最長睡眠区間、ようするに睡眠が途中で中断されたかどうかということをモニターしました。

 試験のデザインは、健康な女性で、若い、14人にご協力いただきました。ボランティアです。これを2群に分けまして、最初の1週間につきましては7人に、スマホの閲覧をブルーライトカットめがねをした状態で、平日のあいだ、ずっとやってもらいました。そして2日間お休みをとりまして、第2週には普通の素通しめがねでスマホを寝る前に1時間みていただく。

 クロスオーバー法というものですけども、残りの7人は逆に素通しのめがねでスマホを見て、2日間お休み、次の月曜日から金曜日まではブルーライトカットめがねをつかってスマホをみてもらう。

 アクティグラフ、さきほどの腕時計型のものは、ずっと着けてもらいました。実際に寝るのは月火水木の夜ですので、4日間、アクティグラフをモニターしました。なお、1日目のデータは当てにならないものですから、これは使わずに、2日目、3日目、4日目の夜について、睡眠の様子をブルーライトカットめがねのあるなしで比較をしました。

ブルーライトカットめがねは、じわじわ効いてくる

古賀 アンケートの結果です。数値になっているので見にくいのですが、この中で睡眠中に目覚めた回数をみます。2日目についてはブルーライトカットめがねをかけていなくても、むしろかけていないほうが目覚める回数は少ないんですね。

 ところが3日目、そして4日目と、目が疲れてきたのと関係があるのかは別としまして、ともかく目覚めの回数がブルーライトカットめがねの方のほうが少なくなる。これは自覚的な、本人の訴えですけども。

 寝付きにつきましても、これは数値が多いほうがいいわけですが、最初はかけていないほうが勝っています。ところが3日目になるとブルーライトカットめがねのほうが勝っている。

 ほかの項目をみていきますと、2日目くらいではいろいろな項目についてそんなに両者の間に差がない。3日目以降になると、ブルーライトカットめがねをかけたほうが、アンケートで聞いた睡眠のさまざまな項目につきましては、勝っているということです。

 つまり、3日目、4日目になってくると、ブルーライトカットめがねというものがだんだんと効いてきて、寝付きについても、それからよく眠れたかという熟睡感についても、寝起きや気分、体の疲れ、目の疲れという点に関しても、ブルーライトカットめがねをかけたほうが、自覚的には快適だったというような結果でした。

アクティグラフのデータはどうなった?

古賀 それを生理学的に裏付けるデータということで、アクティグラフの結果です。これは睡眠時間の比較をいたしました。

 夜、寝ている間は当然、体が動かないということで、アクティグラフは行動の指標ですから、寝ている間はモニターされない。ようするに動かないということがモニターされるわけです。

ブルーライト研究会

 2日目にはブルーライトカットめがねをかけているほうが、やや睡眠時間が短いような傾向があるのですが、だんだん3日目、4日目となるとブルーライトカットめがねをかけてスマホを見たというほうが、その夜はよく眠れたという結果でした。4日目になると、これは有意差という言い方をしますが、統計的にも差があるという結果です。

 じわっと効いてくるということもあるのでしょうか。より長時間モニターしたほうが実際の生活に近いと推測するわけですが、ともかく一晩に眠る時間といったものがブルーライトカットめがねをかけていると、確かにかけていないときに比べて時間がたつほど長くなっていく。

 最長睡眠区間、一晩のうちで一番長く寝た時間はどれくらいかというものを示したものです。途中で目が覚めなかったかどうかという話ですけども、2日目はあまり差がないというか、ややかけていないほうが勝っているという傾向があります。だんだんブルーライトカットめがねのほうの優位性といったものが明らかになってきている。

 結果はこの2つですけども、ブルーライトカットめがねを使ったという場合、ただの素通しめがねと比較して、ともかく時間がたってくると睡眠時間が長くなる、それから途中で目がさめるということが少なくなるだろうということを、この結果が示していると思います。

 スマホのモニターという限られた状況ではありますが、そのなかでスマホから発するブルーライト、これは目の疲れ、眼精疲労を起こすだろうというばかりではなくて、睡眠に影響を及ぼす。そして、確かにブルーライトというものは睡眠時間をはじめとする、睡眠の量とか質に影響があるという結果でして、少なくとも今回はブルーライトカットめがねは有用であるという結果を得ました。以上です、ありがとうございました。

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