富裕層が寄付をしたくてもできない中国的事情:女神的リーダーシップ(2/4 ページ)
中国では慈善活動へのニーズが切実である。急速に発展を遂げたとはいえ、いまだに何億人もの貧困層がいる。共産党の支配が50年以上も続いたため、民間の社会福祉サービスが発展せず、慈善の文化も育たなかった。慈善団体の不在は社会にとって大きなマイナスだ。
杨澜と高广深は、非営利活動の裾野を広げるために研修プログラムを設けた。海外から毎回数十人の専門家を招聘して、現地の非営利組織に向けたセミナーを実施している。わたしたちが2012年に高を取材した時点では、参加者は500人を超えていた。杨は、基金や慈善団体の設立を促すために、みずからスポンサーとなってニューヨークへの視察ツアーを企画し、選り抜きの超富裕層に参加を呼びかけた。現地では、スペシャル・オリンピック(知的障害のある人の自立や社会的参加を支援するスポーツイベント)の開催に何十年も前から携わるシュライバー一族など、寄付に熱心な民間人や、大学基金の幹部など、主立った慈善関係者と面会した。
慈善団体の幹部や職員の育成は実を結んだが、慈善家になりそうな条件を備えた人々はというと、専門家の意見に耳を貸すことに慣れていなかった。「(彼らは)名士との意見交換を好むのです」と高は語る。そこで杨は、米国を代表する大富豪、ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットを中国に招き、慈善家予備軍との会合を開いた。狙いは当たった。参加者たちは、世界にその名を轟かすゲイツとバフェットから、私財をどう世の中のために活かせばよいのか、じきじきに指南を受けることができたのだ。「家族や理念をめぐって話に花が咲き、とても貴重な会合でした」と高は振り返る。
よく知られているようにゲイツとバフェットは、慈善活動の支援に向けて米国の大富豪らの結集を目指す「ギビング・プレッジ(Giving Pledge)」というプロジェクトを立ち上げた。誓いに署名した人々は私財のかなりの部分を慈善に投じるほか、自分の専門性、つまり知性や経験を慈善団体に提供する。中国を訪れた際、ゲイツとバフェットはこのプロジェクトについて語り、中国の大物実業家たちに、私財を慈善に費やせば、ただ小切手を切るのとは一味も二味も違った意義深い経験ができるはずだと説いた。
富と名声を手にした米中両国人の会合をとおして、杨と高は両者の違いに気付いた。米国では、大富豪上位100人の平均年齢は65歳。何世代もつづく資産家一族の出身者が30%を占めるほか、大多数は幼少時から慈善に深く馴染んでいた。中国はどうかというと、資産額上位100人の平均年齢は51歳である。裕福な家系の出身者も、慈善や寄付の経験者も、1人としていなかった。
米国人の富豪とは違って資産構成が大きく偏っているのも、中国人富豪の特徴だった。資産のほとんどを不動産が占めており、これが不安を招いていた。地価や土地開発がどうなるかは、共産党の胸三寸で決まると言っても過言ではないのだ。高速道路や工場の用地選定しだいで不動産価値は一夜にして変動する。最近になって当局は、過剰開発のせいで高コストの空き物件を抱え込むことを恐れ、不動産開発の予算を削減した。このような措置は、中国の大富豪100人の個人資産を直撃しかねない。
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