富裕層が寄付をしたくてもできない中国的事情:女神的リーダーシップ(1/4 ページ)
中国では慈善活動へのニーズが切実である。急速に発展を遂げたとはいえ、いまだに何億人もの貧困層がいる。共産党の支配が50年以上も続いたため、民間の社会福祉サービスが発展せず、慈善の文化も育たなかった。慈善団体の不在は社会にとって大きなマイナスだ。
集中連載「女神的リーダーシップ」について
本連載は、ジョン・ガーズマ+マイケル・ダントニオ著、書籍『女神的リーダーシップ』(プレジデント社)から一部抜粋、編集しています。
「世界を変えるのは、女性と“女性のように考える”男性である!」
ギリシア神話の女神アテナは、文化文明と芸術工芸の守護神であり、戦いの神としての顔も持つ、武力ではなく知恵によって人々に勝利をもたらす。
世界13カ国、6万4000人を対象にした調査から明らかになった、理想のリーダー像とは? 世界で成功している起業家、リーダーが示す特徴の多くは、思想や宗教、文化に関係なく「誠実」「利他的」「共感力がある」「表現力豊か」「忍耐強い」など、一般に「女性的」といわれる資質であることが浮彫となった。
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富裕層が寄付をしたくてもできない中国的事情
慈善活動の旗振り役を務めるのは、「中国のオプラ・ウィンフリー」こと杨澜(ヤン・ラン)である。まさに適役だろう。彼女はテレビのトーク番組のホストとして幅広い人気を集めるほか、新聞、テレビ番組制作、ウェブコンテンツ、雑誌などを扱うメディア・コングロマリットの共同オーナーでもあるのだ。資産額で国内の百傑に入り、知名度では首位に立つ。主な出演番組の『杨澜访谈录(ヤン・ラン・ワン・オン・ワン)』では国内外の著名人をゲストに迎え、オプラ・ウィンフリーと同じく、社会問題を取り上げて解決策を探ろうとする一面も持つ。
財力を生かして中国の役に立ちたいという強い思いから、2006年には家族とともに陽光文化基金を立ち上げた。基金の運営に携わる高广深(ガオ・グアンシェン)によると、当初は特定の目的に縛られず、杨が「これは価値がありそう」と目に留めた取り組みに資金を出していたのだが、森林保護にはずっと力を入れている。杨澜はまた、自分の名声と人脈を生かして、国のために私財を投じてもらえるよう、影響力ある人物に働きかけることにも熱心だったという。
中国では慈善活動へのニーズが切実である。急速に発展を遂げてきたとはいえ、この国にはいまだに何億人もの貧困層がいる。彼らは近代的な住まいとも、質のよい教育や医療とも無縁である。ところが共産党の支配が50年以上も続いたため、民間の社会福祉サービスが発展せず、政府では対応しきれない部分が補われないままになっていた。「慈善の文化がないのです」と高は語る。慈善団体の不在は社会にとって大きなマイナスである。この問題は、2008年に四川大地震が起き、450万もの人々が家を失った後に鮮明になった。救援活動は政府がほぼ一手に引き受けたのだが、これが迅速さに欠けるばかりか要領が悪く、唖然とするほど備えができていなかったのだ。一般の人々は民間の救援活動に寄付をしたが、寄付金の85%は活用されず、最終的には政府に吸い上げられていたことが大地震の混乱が収まった後に発覚した。
「実際のところ、人手不足で救援ニーズにはとても対応しきれませんでした」と高は当時を振り返る。米中両国で教育を受けた38歳の高は、こうも言葉を続けた。
「わたしは民間企業と政府機関の両方に勤めた経験があります。ですが、わたしを育ててくれたのはむしろ、希望、責任ある行い、信頼などの意義を信じる人々です」
彼は、希望、責任、信頼をかたちにするには民間の慈善団体で働くのが一番だと考えた。そして異例の決断により、実績も明確な将来プランもない陽光文化基金に転職した。
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