クラウドファンディングで鉄道遺産を守れ!新連載・杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2015年04月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 新幹線や都市部の鉄道が活躍する一方で、地方鉄道は厳しい局面に立っている。今、鉄道の存在意義そのものが問われている。線路は私たちの生活に寄り添い、列車は人々のさまざまな思いを乗せて走っている。鉄道の役割は移動手段や物流経路にとどまらず、趣味の対象として市場を形成し、ときには政争の具にもなる。新連載「週刊鉄道経済」では、鉄道を取り巻く人々の動向や鉄道会社の施策を紹介し、私たちの暮らしやビジネスのヒントを探していきたい。


 3月25日、クラウドファンディングサービスの「READYFOR」に「47年間愛されて引退した北海道初の電車“赤電”を残したい!」というプロジェクトが掲載された。JR北海道が運行していた711系電車の運行が終了し、廃車解体となる。その電車をJR北海道から購入し、岩見沢市近郊のレストラン敷地内に保存したいという内容だ。募集目標金額は234万円。募集期間は20日と短かく、READYFORの募集中案件の中では高額ランキングベスト5に入る。しかし、何と3日後、約79時間で目標金額を達成した。主に北海道在住者が多かった。さらに全国の鉄道ファンが賛同した。

 鉄道産業遺産の保存活動や鉄道趣味の新しい形として、クラウドファンディングという手法が定着するかもしれない。

「赤電」として親しまれた国鉄711系電車 「赤電」として親しまれた国鉄711系電車

道民の文化遺産、711系「赤電」とは

 711系電車は国鉄時代の1967年に誕生し、翌年から営業運転を開始した。蒸気機関車王国の北海道もついに電化事業が始まり、1968年に小樽駅〜札幌駅〜岩見沢駅〜滝川駅間が交流方式で電化された。711系はこの電化区間で、主に普通列車に使われるために作られた。乗降扉は2つ。厳寒の地を考慮し、扉のある場所と客室の間に仕切り壁があった。

クラウドファンディングサービス「READYFOR」で資金応援を呼び掛けた クラウドファンディングサービス「READYFOR」で資金応援を呼び掛けた

 本州内では急行電車に用いられた仕様だ。座席は4人向かい合わせのボックスシート。ただし、客室の端はロングシートで通勤通学ラッシュに対応した。ボックス+ロングシートという構成は、通勤から長距離旅客列車まで対応する「近郊形電車」に分類される。

 711系は北海道の国鉄で初めて登場した電車だった。急行列車にも使われて、札幌駅〜旭川駅間をノンストップで走った。沿線の利用者からは鉄道近代化、スピードアップのシンボルとして記憶されただろう。711系は約60両が作られ、函館線電化区間の旭川延伸、千歳線、室蘭本線の室蘭までの電化に合わせて運行区間を拡大した。しかし、他の鉄道車両と同様、後継の新型車両と交替する形で廃車が進み、活躍の場も減っていく。そして2015年3月13日、ダイヤ改正の前日をもって運行を終了した。

「北海道鉄道観光資源研究会」公式サイト。現在の会員数は約50人 「北海道鉄道観光資源研究会」公式サイト。現在の会員数は約50人

 北海道の鉄道史において、711系電車は蒸気機関車と同じくらい重要な車両だ。趣味の対象としてではなく、市民生活にも密着した文化遺産とも言える。しかし、JR北海道に保存・展示の予定はなかったようだ。なにしろJR北海道は現在「それどころではない」状態である。1年後に控えた北海道新幹線の開業準備と、一連の不祥事から急務となっている安全対策が最優先である。711系電車の引退、新車の投入も、厳しい財政事情の中で進める安全施策の1つである。古い電車の保存まで手が回らない。

 そこで鉄道趣味団体「北海道鉄道観光資源研究会」が立ち上がった。北海道内に眠る鉄道遺産を研究し、観光に生かす活動をしている。会員数は約50人。対象の鉄道遺産は161市町村にわたって確認されている。711系電車の保存活動もその1つだ。

 代表の永山茂氏は1959年生まれで京都出身。蒸気機関車の魅力に取りつかれて北海道に移住。日本旅行に就職し、札幌を拠点に趣味も満喫。元日本旅行札幌支店長。その後、日本旅行北海道の新規事業室長として、貸切観光事業の北海道オプショナルツアーズ(ほっとバス)、農業観光事業のアグリツーリズムネットの設立にかかわった。研究会の事務局は北海道オプショナルツアーズ内にある。研究会と協力し、夕張の炭鉱鉄道遺構、定山渓鉄道関連遺構などの鉄道遺産見学ツアーを開催している。

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