企画力と実行力の祭典「鉄旅 OF THE YEAR 2014」の名作を見よ杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2015年02月20日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

鉄道マンの心意気に感動した準グランプリ

 準グランプリは、ジェイアール東海ツアーズが8月に3回実施した「親子で行く修学旅行 発見!東海道新幹線のおしごと」だ。東京発の1泊2日。1日目は東京で東海道新幹線の大井車両基地を見学し、東海道新幹線で名古屋に移動して宿泊。2日目は「リニア・鉄道館」を見学する。宿泊は名古屋駅真上にある「名古屋マリオットアソシアホテル」で、滞在中も夜景や新幹線の走行を眺められるという趣向だ。

『親子で行く修学旅行 発見!東海道新幹線のおしごと』。新幹線の貴重な体験に人気集中。プレスリリースしてすぐに問い合わせが殺到、発売日は19分で完売した(パンフレットより) 『親子で行く修学旅行 発見!東海道新幹線のおしごと』。新幹線の貴重な体験に人気集中。プレスリリースしてすぐに問い合わせが殺到、発売日は19分で完売した(パンフレットより)

 このツアーの見どころは1日目に集約される。普段は非公開の大井車両基地を見学できるだけではなく、東京駅から大井車両基地までの回送線に乗車できるところ。大井車両基地では電車に乗ったまま洗車機を通過できたり、ドクターイエローの車内を見学できたりと、普段できないことばかり。新幹線50周年もあって、JR東海が全面的に協力している。ジェイアール東海ツアーズはJR東海の子会社だからできた企画とも言える。

 2日目は博物館見学だから特別感は薄れる。しかし、このツアーだけの特別授業が用意されていて、専門の職員が新幹線の仕組みを紹介したり、ダイヤの作成を体験できたりする。名古屋から東京への帰路の新幹線では、車掌さんの車内検札を体験できる。

 このツアーは私も参加したかったけれど「親子で行く」とあるように、子ども同伴が条件。……いや、正しくは大人の付き添いが必須の子ども向けツアーなんだけれども。ただし「大人は親御さんでなくても」という条件だから、叔父叔母、祖父母、成人した兄や姉でもOKだ。私もどうにか参加したくて、近所の子どもを連れて応募しようと考えて踏みとどまったくらいだ。

 このツアーは3人1室で1人あたり大人4万6000円から、子ども3万8500円から。新幹線の名古屋往復と一流ホテル宿泊、そしてこのツアーでしか得られない体験ばかりだから、お買い得である。審査員からのコメントも「ぜひもう一度」「毎年恒例に」と望む声が多かった。もちろん私もその一人である。

 しかし、ジェイアール東海ツアーズによると、親会社のJR東海の安全意識、セキュリティー意識はとても高く、実現はなかなか難しいのだという。その言葉から、さまざまな部分で交渉が難航したり、お堅い、いや、職務に厳格な鉄道幹部を説得したりと、大変な苦労があっただろうなと想像した。お客さまの安全管理のために、JR東海は警備要員や説明要員など数十人を配備したそうだ。

 それでもツアー中は車両基地の職員が手作りの横断幕で歓迎してくれたり、子どもたちの質問にも丁寧に応えたりする場面があったという。夏場のイベントだけど基地内には空調のない場所も多く、簡易クーラーや大型送風機を設置。塩飴なども配布したとのこと。旅行会社にとって儲けは薄いかもしれないし、現場の鉄道職員にとっては本来の業務外の負担だけど「子どもたちに夢を与えたい」という情熱を感じた。

 大変だと思うけれど、それでも近いうちに開催してほしい。できれば今年も、せめて10年後に。「次は100周年」だと私は間に合わない……。

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