では逆に、中国支持を表明した国はあるのか。著者の知る限り、ほぼ皆無だと言っていい。明らかに中国が強引な手段に出ている上に、いくつもの国々を一斉に敵に回している状況で、中国の行為を支持する“向こう見ず”な国はさすがにない。
ただあちこちのメディアを見ていると、こんな意見もちらほらあった。今回のベトナム国内でのデモで、最も損をするのはベトナムにほかならない、というものだ。
それを最もよく分かっているのは中国だろう。2012年、香港の人権活動家が日本領海を侵犯して尖閣諸島に上陸したことで、海上保安庁が活動家らを逮捕して強制送還した。その後、中国国内で大規模な反日デモが発生している。
普段ならデモを許さない中国政府だったが、このときは日本企業などを狙ったデモの暴徒化を黙認した。これは今回のベトナム国内のデモ、およびベトナム政府の対応と酷似している。
しかし、中国政府は当時の反日デモにより、かなりの痛手を負ってしまった。英ビジネスウィーク誌は、ベトナムのデモについての記事で、日本の対中投資は反日デモ後の2013年に前年比で32%も減少し、その損失は91億ドル(日本円換算で約9200億円、2014年5月21日現在)に上ったと指摘している。一方で、そうした投資はASEANの5カ国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムに流れており、投資額が2012年の90億ドル(約9100億円)から2013年の198億ドル(約2兆円)に倍増したという。
ベトナムにとって中国は世界で第2位の貿易相手だ。一方の中国もベトナムの工場や不動産へ大規模な投資を行っており、その額は約23億ドル(約2300億円)にのぼる。ベトナムは賃金が上がっている中国に代わる新たな「世界の工場」と期待されているが、中国でなくとも、国内情勢が不安定になれば、ベトナムへの投資が減速する可能性があるのだ。
すでに中国外務省は「両国間の交流計画を部分的に中止する」と発表し、さらに追加的措置も検討しているという含みを残す発言をしている。
こうした状況を考えれば、いかにベトナムが“中国はけしからん”という支持の声を世界から得たところで、結局は、経済的なツケを払わされる可能性が高い。2国間では太刀打ちできなそうな状況だけに、この問題で中国に勝つためには、中国と距離を置きつつあるフィリピンや、中国とライバル関係にあるインドなどと協力して対抗するしか選択肢はなさそうだ。
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