世界中から“同情”されるベトナム、でも結局中国には「勝てない」伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年05月22日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

世界各国が中国に自制を求める

 まずは欧州。ちょうどブリュッセルで日EU定期首脳会議(参考リンク)が行われていたのだが、EUの広報担当者は「ベトナム船と中国船の衝突が示すように、EUは単独行動が地域の安全保障環境に影響を及ぼすことに懸念を抱いている」とコメント。その上で「関係国に国際法、特に国連海洋法条約にのっとり平和的・協力的な解決を目指すよう要請する」と指摘した。これは独自路線で一方的な強硬手段に出る中国に対するやんわりとした牽制ととれる。

 このコメントを受け、英国のヒューゴ・スワイア外務閣外大臣も、中国に対して「中国による係争水域での石油採掘装置の設置が、南シナ海の緊張を高めることになった」とし、「EUの声明を支持し、中国政府に閣僚レベルで問題を提起した」とのコメントを発表した。

photo 2014年5月7日、ブリュッセルで第22回日EU定期首脳協議が開かれた(出典:外務省HP)

 バラク・オバマ大統領によるアジア歴訪でアジア重視政策を再確認した米国だが、過去の政権時代に比べても、相変わらず中途半端な反応だ。ジョン・ケリー国務長官は訪米から帰国したばかりのベトナムのファム・ビン・ミン外相に電話し、「中国の行為が挑発行為だとする見解で一致している」と伝えたという。

 米国については、オバマが先のアジア訪問で、中国と南シナ海問題で対立する東南アジア諸国に“中国に屈することはない”という印象を与えていたと指摘する話も出ている。軍事力で中国に劣る東南アジアの国々にとって、米国の支持を取り付けられるかどうかは、特に南シナ海問題において今後の形勢に大きな影響を与える。

 国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長も、中国の動きに対して「関係国には最大限の自制を行い、対話や国際法にのっとって、平和的手段で対立を解決するよう求める」とコメントしている。潘事務総長の出身国である韓国も、日本と竹島の領有権をめぐって揉めているのは周知のことだが、ぜひとも事務総長という中立的な立場から、母国にも同じような指摘をしてもらいたいものである。

 ベトナムのファム・ビン・ミン外相は、今回の中国の行為に対処するため、インドネシアとシンガポール、ロシアといった国々に電話を入れて協力関係の強化を求めた。インドネシアは「深刻な懸念」を表明し、世界で2番目にベトナムへ投資を行っているシンガポールは「ベトナムがシンガポール企業などを守る対策を行っている」と評価した。ベトナムと中国の両国と関係の深いロシアは、対話による解決を求めた。ベトナムにとって、これらの国は重要度が高いことがうかがえる。

 関係国のメディアも、ベトナムに同情的な論説記事を掲載した。インドネシアのジャカルタトゥディ紙は「国際法で偏見のない2国家による解決を目指すべき」「暴力は暴力を生み、何の解決にもならない」と、強引な掘削を止めるよう促している。フィリピンのマニラタイムズ紙は、「フィリピン人は中国大使館前で、ベトナムの友人たちのために反中デモを行った」と書き、1979年の中越戦争のように人民解放軍がフィリピン人を殺そうものなら、「日本軍に抵抗したときのように立ち上がる」とかなり感情的だ。

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