信頼関係で結ばれた人々がグループで保険に入る女神的リーダーシップ(2/2 ページ)

» 2014年01月21日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]
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エレベーターの部品会社から公園の遊具メーカーへ

 フレンドシュアランスのような信頼関係で結ばれたオープンで協力的なグループは、女性的な価値観を体現しているといえる。これから紹介するベルリナー・ザイルファブリークのような、伝統的な小規模製造業者においてもそれは同じだ。

 ベルリナー・ザイルファブリークはエレベーター・ケーブルの製造会社として産声を上げ、ベルリン郊外に工場を持つ。先代社長のもとでも事業は好調に推移していたが、あるとき、遊具の設計案が持ち上がり、それを機に事業内容をがらりと変えた。「設計案は、素材として三次元ネットを使う点が特徴でした」と社長のデービッド・コーラーは語る。従業員の1人が、極端な悪天候にも負けない耐久性を持ち、しかも柔軟性が高くてさまざまな形状に組み立てられるロープの製造方法を考案したのだ。ベルリナー・ザイルファブリークは現在、世界各地で遊具を販売しており、年に2つのペースで新製品を発表している。エレベーター用ケーブルはもう何年も製造していない。

 もっとも、わたしたちがベルリナー・ザイルファブリークに注目したのは、楽しい商品をつくっているからというより、堅調なドイツ経済の根幹をなす中小企業だからである。従業員数が50〜200人の中堅メーカーは、大不況をものともせずに高業績を謳歌しているばかりか、女性的な経営スタイルをまさに地で行っている。「高業績を維持する主な秘訣はというと、1つにはイノベーションです」とコーラーは言う。「世界中のトレンドを探り、それにうまく乗るために間髪入れずに行動します。大企業だと何年もかかることを、わたしどもは6カ月でやり遂げますから」

 手を広げない経営手法も、中小企業の優位性である。ベルリナー・ザイルファブリークは、専門特化した業界のなかでもさらにニッチな分野の商品をつくっている。コーラーは品質の維持に大きな努力を払っており、長期雇用の少数精鋭の従業員たちが活躍している。40年前から勤務する古株もいるので、どんな問題が起きても誰かが解決策を知っている。しかも献身的な人材が集まった小所帯は、上司にとってさえ家族のように思える。

 「大企業と違い、性急に人を採用したり解雇したりすることはありません。従業員はみんな、わたしをファーストネームで呼びます。わたしも全員をよく知っています。景気が悪いと全員が結束しようとしますし、業績がよければわたしは喜んで給料を増やします。ですが、カネがすべてではありません。投資収益率だけを注視しているわけではないのです。肝心なのは、『会社に行きたい』と思ってもらえるかどうかです。みんな、待遇に満足してくれています。全員の将来を考えて判断を下していることを、分かってくれているのです」

従業員の忠誠心を高める商品の役割

 商品も従業員の忠誠心を高める役割を果たしているという。「社内では子どもについての話題がよく出ます。どうやって遊びをより有意義なものにするか、いかに子どもの発育を促して将来に備えられるようにするか、などとね」。ネット状の遊具を使うには、てっぺんに到達するための手順を考えたり、絡まったりしないように慎重に前進したりする必要がある。このようなメンタル力や空間能力を生かしててっぺんまで辿り着くと、達成感、さらには征服の喜びに浸ることができる。

 ベルリナー・ザイルファブリークの従業員は、自社の商品が欧州や北米だけでなく、南米、アジア、アフリカでも、安全な遊びの選択肢を広げていることも知っている。彼らが売り込みのために海外出張に行く機会はまずないが、その役割をほぼ一手に引き受けるコーラーが、詳しい報告を行い、子どもたちが最も喜んで使うのはどの遊具か、学校の先生や公園の職員からはどういったお褒めや苦情があるか説明する。

 「従業員たちに、彼らが開発した新商品への反応を伝えています。業務全体に関われるようにしているのです。事情が許せば、ショーや見本市にも連れて行きますよ。社長宛に招待があった場合は、誰かを同伴します。当社では全員がすべてに関わるのです」

 何かを決める際にも全員が参加する。「以前は、大切な判断は幹部だけで下していました。しかし、いまではデザイナーとセールス担当者、それに製造担当者にも加わってもらっています。彼らにパンフレットの案を見せて、『これでいいだろうか?』と聞くのです」。するとほぼ全員が堂々と自分の意見を述べるという。コーラーは従業員の意見を頼りに、今後の競争環境、つまり、オープンな社風、協力関係、目的意識の共有がよりいっそう求められる環境を勝ち抜いていくつもりである。(つづく)

著者プロフィール:

John Gerzema(ジョン・ガーズマ)

消費者行動が経済成長、イノベーション、企業戦略に与える影響を分析する社会理論家。グローバル企業のコンサルタントとして、消費者の価値観やニーズの変化を膨大なデータ分析によって追跡調査している。前著『スペンド・シフト』は、ビジネス雑誌、ファストカンパニーの「ベストビジネス書2010」に選出され、北米で出版されたビジネス書を対象としたAxiomビジネスブックアワードで2012年の金賞を受賞。

コロンビア大学、MITスローンスクールなどで講師を務め、TEDでのスピーチは25万人に視聴されている。BAVコンサルティングのエグゼクティブ・チェアマン、世界50カ国、5万ブランドを対象とした世界最大の消費者調査、BrandAssetValuator(BAV)の責任者を務める。


Michael D'Antonio(マイケル・ダントニオ)

ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト。ビジネス、サイエンス、スポーツと多岐にわたるジャンルで15冊を超える本を執筆。チョコレート王を描いたHershey(未訳)はビジネスウィークの年間ベスト書の1冊に選ばれた。ノンフィクション映画、Crown Hightsの脚本で、人間の尊厳や自由を訴える優れた作品に贈られるヒューマニタス賞を受賞。


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