信頼関係で結ばれた人々がグループで保険に入る女神的リーダーシップ(1/2 ページ)

» 2014年01月21日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

集中連載「女神的リーダーシップ」について

 本連載は、ジョン・ガーズマ+マイケル・ダントニオ著、書籍『女神的リーダーシップ』(プレジデント社)から一部抜粋、編集しています。

「世界を変えるのは、女性と“女性のように考える”男性である!」

ギリシア神話の女神アテナは、文化文明と芸術工芸の守護神であり、戦いの神としての顔も持つ、武力ではなく知恵によって人々に勝利をもたらす。

世界13カ国、6万4000人を対象にした調査から明らかになった、理想のリーダー像とは? 世界で成功している起業家、リーダーが示す特徴の多くは、思想や宗教、文化に関係なく「誠実」「利他的」「共感力がある」「表現力豊か」「忍耐強い」など、一般に「女性的」といわれる資質であることが浮彫となった。

ヒラリー・クリントン前国務長官が「賛辞」を送り、『ワーク・シフト』の著者、リンダ・グラットン教授が絶賛した話題の書、ついに翻訳化!


信頼関係で結ばれた人々がグループで保険に入る

 もし保険会社を対象としたノーベル賞があれば、フレンドシュアランス(Friendsurance)は受賞間違いなしだろう。リサーチゲートの近く、ベルリンの壁の残骸が見える場所に本拠を置くこの会社は、保険料を抑えながらより大きな安全、健康、幸せを保障する、独創的な仕組みを用意している。標準的な保険商品のグループ購入プランである。

 これは、企業、労働組合、社会組織などがかなり以前から活用していた団体保険の考え方にならい、複数の加入者を束ねることにより、巨額の保険金請求があった場合のリスクを分散しようとするものだ。全体のコストも低減する。フレンドシュアランスはさらに、「仲間の目もあるから無謀な行いを避けなくては」という意識を加入者に持ってもらうことにより、リスクの低減を図っている。これが可能なのは、信頼関係で結ばれた人々が合意してグループで保険に加入するからである。

 フレンドシュアランスを共同創業した若き革新者、ティム・クンデもまた、これまでに紹介してきたような、金銭的報酬を追求しながら社会に役立とうと奮闘する欧州の起業家の1人である。ただし、マディシュのように新しい交流サイトを構築するわけでも、バンブーザーの創業者のように新種のメディアによって言論の自由を後押しするわけでもない。クンデはむしろ、ビジネススクールの伝統的な教育の申し子であり、ワクワク感とは無縁の、即席スープをつくる会社のコンサルタントを経験した。やがて、安い保険料で不測の損害に対処できるように、知人・友人関係を土台としたサービスをつくろう、という画期的なアイデアを思いついた。

 わたしたちの取材に対して、「年の始めにグループ全員に一律の保険料を払ってもらい、年末に割戻しを行います」と説明してくれた。割戻し率はグループ内の保険金請求状況に応じて決まり、50%に達する例もある。「保険金の請求件数が多いと、割戻し額は減ります。件数が平均以下だと割戻しがあります」。この手法を取り入れることにより、保険会社は管理や不正請求に伴うコストを低減できる。

業界に新風を吹き込む醍醐味

 「古くからの伝統的な業界に新風を吹き込む、それがこの仕事の醍醐味です」。こう語るクンデは31歳。どんな業界にでも飛び込んでいけそうに見える。取材当日も、雨が降って凍てつくような寒さのなか、バイクに乗ってやってきた。「保険そのものに凄く興味があるわけではありません。客観的な視点で業界を眺めるのが楽しいのです」

 クンデは客観的な視点から、「責任ある行動を取ったほうが得なのに、それを理解していない消費者が多い」と気付いた。保険業界のコストの大半は、不正ないし疑わしい請求に起因している。つまり、加入者が不注意な振る舞いをしたり、事故や盗難の状況を正確に伝えなかったりした事例である。この種の行動は、加入者と保険会社のあいだに顔の見える関係が成り立っていないとか、両者の利害が対立する場合に起きやすい。

 「加入者は、保険料を支払って損害が補償されればそれでよいわけです。そして、保険金を請求して元を取ろうとします。保険会社の立場など知ったことではありません。もしわたしが、不正かそれに近い請求をしても、大手の保険会社は気付かないでしょう。ですから、加入者は無責任な行動を取れるのです」

 クンデは、旧来の保険会社は加入者の真のニーズに無関心だとも語る。「お仕着せの商品だけを売ります。消費者が望む、ニーズに合った商品ではなく。ある保険会社はブランドイメージの刷新を図り、『加入者の味方になります』と宣言しました。最初、このキャンペーンは大当たりしましたが、看板倒れがアダになり、結局は失敗に終わったのです」

 フレンドシュアランスは、グループ契約と保険料の割戻しを組み合わせることによって、責任という概念を保険に持ち込んだ。例えば自動車保険に加入しようとする人は、知人や友人の顔を思い浮かべながら、誰が優良ドライバーか、誰が事故を起こしそうかを考える。そして、できるだけ有利な条件になるように、5〜60人のグループを形成する。加入者は、他のメンバーの目もあるため「慎重な運転を心掛けなくては」という道義心を強める。自分が衝突事故を起こしたせいでみんなが割戻しを得られなくなる事態は、誰しも避けたいだろう。

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