放送でインターネット――放送と通信の融合は普及するか?中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(1/2 ページ)

» 2013年04月17日 10時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]

中村伊知哉(なかむら・いちや)氏のプロフィール:

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)など。

中村伊知哉氏のWebサイト:http://www.ichiya.org/jpn/、Twitterアカウント:@ichiyanakamura


※編集部注:本記事は2013年4月15日に@IT「中村伊知哉のもういっぺんイってみな!」で掲載された記事を転載したものです。

日本的なダブルスクリーンモデルを模索

 IPDC(アイピー、データキャスト)とは、放送の電波を使って、IPプロトコルという通信技術でデータ配信することだ。つまり、放送と通信の融合。その普及を目指して、「IPDCフォーラム」を立ち上げたのが2009年。(1)規格化の検討、(2)使い方の検討、(3)制度化への要望に取り組んできた。私が代表を務め、放送や通信、メーカー、ソフトウェア、広告など、会員は40社を超える。

 当時、放送の電波に通信技術を乗せ、ハード・ソフト分離、通信・放送サービス混合、有料・無料コンテンツ混合、なんてことを実現するのは技術的制度的には夢のまた夢。このため、ユビキタス特区を作れだの、法体系を抜本改正して融合法制を作れだの、そんなことを叫んでいたので当時は鬼っ子扱いだった。

 しかし、地デジの全国整備やブロードバンドの全国化も見えてきて、GoogleやらAppleとやらも攻めてきて、事態は急変した。特区も法改正もどんどん実現し、3年たってみたらIPDCにやおら脚光が当たるようになっていた。民放と通信会社とが連携したNTTドコモグループ「mmbi」による「NOTTV」がこの方式を採用している。

 放送展InterBEE2012には、IPDCフォーラムとしてブースを出展し、放送局主導でマルチスクリーンをコントロールする技術の具体像を示そうとした。特に大阪の放送局を軸に発足した「マルチスクリーン型放送研究会」(マル研)の成果を展示。12テレビ局、15番組が参加した。

 放送番組とTwitterとを混在させたMBSの「災害ニュース」、テレビとタブレットにアニメとマンガを表示させる、よみうりテレビの「宇宙兄弟」。自分のタブレット端末でテレビ回答者に成り代わって遊ぶABCの「アタック25」や、番組に登場する現在地の地下鉄ルートをタブレット表示する関西テレビ「キャラぱら! ちん電くん」、番組で案内される商品情報をタブレットからネット販売につなげるテレビ大阪の「やすとものどこいこ!」など、多様なジャンルのコンテンツが日本的なダブルスクリーンモデルを模索していた。 IPDCは、放送の電波1本でテレビもタブレットやスマホなどのダブルスクリーンもカバーする仕組み。放送局がすべてをコントロールする方式だ。InterBEEでは、1台でマルチスクリーンを扱えるようIPDC受信機と室内送信機を内蔵したテレビ端末を試作し、在阪5局が合同で作った「サワリや」というコンテンツを表示していた。

 IPDCのメリットは、通信では難しい一斉同報性だ。数多くの人に一度にデータや制御コマンドを送れ、耐災害性にも優れ、コンテンツの伝送回路としても有望。既存の地デジ設備にそのまま乗っかることができるのが強み。

 mmbiで実用化されているファイル配信や(音楽、電子書籍など)、その応用としてサイネージへの動画配信、M2M(マシン・トゥ・マシン)と呼ばれる機器への制御情報の配信や、一斉同報性を生かした防災への活用など、できることはいろいろある。

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