礼讃される米メディアって本当にすごいのか?伊吹太歩の世界の歩き方(3/3 ページ)

» 2013年03月28日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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「私がニュースを去った理由」

 「私がニュースを去った理由」と題されたブログ記事によれば、記者を辞めた最大の理由は、「今後のキャリアとして、続けられる世界ではなくなったから」だった。ブログを書いたのは、フロリダ州の新聞社に勤めていた28歳のアリソン・バード元記者。事件取材を主に担当していた。

 「肉体的にも感情的にも疲れ果ててしまう記者という仕事は、署名記事を書くという虚栄心があったから続けられた」と、バード氏は書く。彼女が新聞記者になったのは2005年のこと。状況が変わったのはインターネットの普及。だがそれは世界どこでも同じだ。

「私が思うに、インターネットが新聞を殺したのではない。新聞が新聞を殺したのだ。新聞を所有する経営陣は短い記事にしか興味がない気まぐれで感謝のないネット上の読者に適応しようとする。ニュース担当たちは、部下たちの記事を読みすらしない上層部の要求に応えようとする。結局、みんな敗者だ」

 ビジネスとして迷走する米メディア。それは大手新聞も雑誌も、テレビだって例外ではない。廃刊をはじめ、大手新聞のリストラ、規模縮小、経費カットなどは実際に何人かの記者から直接、話を聞いたことがある。ただその弊害は大きい。

「8時間勤務なんてものはあり得ない。でも取材先の企業が勤務時間に合わせて適切な支払いを拒否していたら、それは1面トップの見出しに躍るだろう。28歳で記者を辞めたときの私の給料は、22歳で記者になったときよりも少ない。実家が金持ちでもない限り、誰がそこまで経済的に未来のない仕事するのか」

「数年前の誕生日に休暇でニューヨークに行ったが、そのときも編集者から電話が入った。休みの前に書いた原稿について、癌で闘病する少女の記述をもっと『悲しく』見せる必要があると言われた」

「こんな状況がもたらすものは危険だ。全国紙が、最高裁の判決を間違って報じたし、米東部のコネティカット州ニュートンにある小学校の銃乱射事件では、全国紙・全国放送がこぞって犯人の弟を容疑者だと間違って報じた。とにかく早く報じて、間違っていたら後で修正する――これではブロガーと何ら変わらないではないか」

 実際に、とにかく最近では間違いが多い。特にネット記事を読めるようになった今、記事の一番下に「CORRECTION(訂正)」と書かれた記事をかなり多く目にするようになった。人が減り、チェック機能が行き届いていないのだ。

 バード氏は地方の新聞社に勤めていたのだが、ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙などの大手が直面している状況も、程度の差こそあれ、そんなには変わらないだろう。

 もちろん、米メディアが優れている部分もある。ただ、それを手放しで礼讃したり、無条件で信用するのは、そろそろやめにしたほうがよさそうだ。

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