なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)

» 2013年01月25日 08時12分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 2013年1月18日、埼玉県行田市の秩父鉄道の踏切で、小学生が電車と衝突して亡くなった。その踏切の報道映像に既視感があった。1カ月前に放送されたNHKのドキュメンタリー番組で「4年前に小学生が事故で亡くなった」とされる踏切と同じ場所だったからだ。

 この踏切は法令の分類上「第4種踏切」という。踏切警報機や遮断機がなく、標識が設置されている。亡くなった小学生は、この踏切に自転車に乗ったまま近づき、停止せずに進入したと思われる。ちなみに第1種踏切は「踏切警報機と遮断機を備えた」、第2種は「踏切係員が詰める時間帯だけ遮断機を操作する」、第3種は「警報機のみ遮断機なし」となっている。秩父鉄道には、70キロメートルを超える路線に第4種踏切が99カ所もある。1999年以降の踏切事故死亡者は14人もいるという。

 事故の起きた踏切に遮断機があれば少年は停止しただろう。警報機があれば列車の接近を察知できたはずだ。最近の電車は静かだから、自転車で近づいても電車の音には気づかなかったと思う。この踏切には歩行者をセンサーで検知し、注意を促すメッセージを流す装置があった。さて、そのメッセージは自転車の少年に聞き取れただろうか。列車が来ないにもかかわらず音声が流れ続けるようなシステムだとしたら、それは童話の狼少年のようなもので、そのメッセージに耳を貸す人さえいなくなってしまうだろう。

小さく通行量の少ない第4種踏切も、利用者にとっては生活道路の一部(福島交通飯坂線)
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