なぜ千葉市で政令市最悪の財政が生み出されたのか最年少政令市長が経験した地方政治改革(1)(3/3 ページ)

» 2012年11月21日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3       

役所の論理ではない人間が選ばれなかったのが不幸だった

 もう21世紀なのですが、私は戦後初めての民間出身の市長になります。だから私が当選して、市長として市役所にやってきた時、「黒船がやってきた」みたいな顔をされるわけです。私は31歳でしたし、橋下徹大阪市長のように人を粛正するような気持ちもなかったのですが、みんな微妙な顔でうかがうような感じでした。

 それはそうで、選挙の時はみんな向こうの候補を応援しているんですね。橋下さんが大阪市長選挙で市職員が現職候補を応援したと言っていますが、その通りなんです。例えば、私と副市長が選挙に立候補して第一声をどこであげるかというと、私は市役所改革を訴えていますし、向こうは市役所が仲間なので、ともに市役所で第一声をあげるわけですね。

 しかし、私が第一声をあげても誰も出てこない。窓側にも誰もやってこないんですよ。後で聞くと、とにかく出られない雰囲気だったと。その後、私が去って、副市長が演説すると、玄関から幹部がぞろぞろ出てきて、周りを囲んで「頑張れ」となるわけです。そういうことをやっているのでバツも悪いわけです。そういうことも含めて、彼らは初めて知らない、仲間ではない人間がやってきたわけです。

 でも、なぜ役所の中で市長だけを選挙で選ぶかというと、内部昇格ではダメだからです。副市長と市長というのは、副が付くか付かないかの違いですが、もともと副市長は助役でした。副市長と名前を変えたから分かりにくくなっているのですが、副社長と社長じゃないんですね。完全に違うわけです。

 市長だけは選挙で選ばれる人間で、副市長(=助役)までが役所の人間です。住民代表として役所をコントロールしてもらうために送りこまれるのが市長なのですが、内部から勝手に選んで事実上昇格させてきたわけですよね。事実上、60年ほどコントロールが働いていなかったんです。

 公務員の人が決して間違っているわけではないですが、本来1人はせめて役所の論理ではない人間が必要だから選んでいるのに、役所の論理しか持っていない人間が選ばれてきたのが千葉市の不幸なところです。

 それにどういうものがあるかというのはこれから申し上げますが、1ついいところはあります。諸団体がスクラムを組んで市政を応援していたために、戦いがあまりありません。ですから、諸団体と市役所との関係は良好で、お互い協力関係にある。もたれ合い構造とも言えるかもしれませんが、安定感はあります。議会もオール与党です。

 しかし一方で、政令市最悪の財政が生み出されました。そして、高齢者を中心に過剰な福祉が行われてきました。なぜなら選挙に弱いので、票を持っている人たちの言うことを聞かないといけないからです。彼らの要求する政策をのみこんでやっていくわけですから、当然歳出が出る方に振れるに決まっているわけです。

 それから公共施設や墓地が無料といった受益者負担の原則を欠くような状況が生み出されています。大型開発でもハード中心の街作りが行われたり、政令市レベルに達していない経済施策があったり、情報公開度ランキングが常に最下位で閉鎖的な行政体質になっていたりということがありました。

 その中でまず千葉市は政令市最悪の財政なので、お金の使い方を根本的に変えないといけないということで、脱財政危機宣言を出して、市民の反発を恐れずに事業の見直しを行いました。ですから今、橋下さんがやっているようなことは、我々がいつか通った道みたいなものですね。

 それから大型開発事業の見直し、徹底した行政改革ということで人件費の削減や外郭団体の統廃合、公営企業の経営改革といった当たり前の話ですね。人口減少時代に対応した施策展開ということです。

 千葉市は人口が増えてきた中で仕事をしてきたので、人口を増やすという発想がありませんでした。人口を増やすための部署が、行政に存在しないんですよ。普通はユーザーを増やすのが一番の仕事で、次にリテンション(既存顧客との関係を維持していくための活動)という2本柱になりますが、行政というのはリテンションしかないんです。地方はどうやって人口を増やすかと一生懸命考えていますが、首都圏は自分が努力しなくても東京の魔力で人口が増えてきたので、人口をとってくるという発想が気薄でした。最近は焦り始めていますが、それは特徴的ですね。そして政令市にふさわしい産業経済施策を立案していかないといけません。

 →第2回「敬老会補助に銭湯無料券……千葉市が行ってきたバラマキ事業」に続く

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.