コラム
» 2012年10月25日 08時01分 UPDATE

相場英雄の時事日想:検証する前にすべきことはないのか iPS細胞の誤報記事 (1/3)

iPS細胞を用いた臨床応用事例が虚偽だったことで、読売新聞社と共同通信社がおわびと検証記事を掲載した。当事者自らが頭を下げたことで事態は沈静化したかもしれないが、一連の誤報によって読者の心情を置き去りにしたのではないだろうか。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた臨床応用事例が虚偽だったことで、大新聞が自らの誤報を謝罪したのは記憶に新しい。当事者となった読売新聞社や共同通信社がおわびと検証記事を掲載したことで、記者の“ウラ取り”の甘さに驚いた読者は少なくないはず。読売や共同が真っ先に頭を下げたことで事態は沈静化に動いているように見えるが、一連の誤報によって置き去りにされた読者の心情はどうなるのか。他紙や週刊誌の批判記事とは別の角度で考えてみる。

かつての大誤報

 読売と共同の事例に触れる前に、10年前の事柄に触れる。私がかつて勤務していた時事通信社が誤った情報をもとに記事を配信し、批判の矢面に立たされたのだ。

 誤報のいきさつはこうだ。

 2002年9月17日、当時の小泉純一郎首相が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を電撃的に訪問し、同国の金正日総書記と会談した。この中では、両国の国交正常化に向けた話し合いがもたれたほか、北朝鮮による日本人拉致問題も議題となった。この際、時事は同日午前の段階で拉致被害者3人が一時帰国すると速報した。

 速報が流れた際、私は東京証券取引所の中にある兜記者クラブに詰めていた。自社の情報端末がけたたましくブザーを鳴らし、短文の速報を次々に流したことを鮮明に記憶している。

 速報は手早く夕刊用記事にまとめられ、地方紙やテレビ局向けに目玉記事として配信された。だが、事態は同日午後に暗転する。北朝鮮側の調査結果で時事が速報した内容が誤りだったことが判明したのだ。

 その後、時事社内では早速誤報の検証が始まった。経済部の同僚記者らが政治部や社会部に対して水面下で取材し、社として公式見解をまとめる前に、さまざまな杜撰(ずさん)な経過が明らかになった。

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