話をiPSの臨床応用誤報事件に戻す。
さまざまな報道によれば、世界で初めて臨床応用を行ったと主張していた研究者は、多数のメディアに接触していた。だが、大半のメディアは裏付け取材を通して記事化を見送った。平たく言えば、うさん臭いのでボツにしたわけだ。
どのような経緯で読売と共同が掲載に踏み切ったのかは検証記事に頼るしかないが、現在の読売と共同の姿勢を外部から見ていると、同業者の中での言い訳や自らの立場を守ろうとする姿勢が目立つ。先に触れたが、誤報によって傷ついた読者に対する真摯な謝罪が見えてこないのだ。
最後に私の20年来の友人に触れる。
友人には難病を患う息子がいる。根本的な治療方法が見つからず、家族全員で懸命に患者を支えている。過日、友人と会った際、こんな話を聞いた。
「読売の記事を読んだ直後、家族で飛び上がって喜んだ」――。
私が説明するまでもないが、iPS細胞の研究は神経や筋肉の再生医療の切り札とされている。読売の報道に接した友人は、こうも言った。
「何年かかるかは分からないが、息子がいつの日か完治するという期待がもてた」――。
だが、件の報道はあっさりと否定された。病名など詳細は記さないが、私が会った際に友人は憔悴(しょうすい)し切っていた。読売と共同のウラ取りのミスが、招いた結果であると言ったら厳しすぎるだろうか。
スクープは誤報と背中合わせの存在だ。ウラ取りのマズさが、友人とその家族、そして多くの同じような患者の心情を乱してしまった。当該の会社だけでなく、メディア界全体で今回の事象を重く受け止めなければならない。
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