米国アニメ産業はアウトソーシングで空洞化したかアニメビジネスの今・アニメ空洞化論その2(1/3 ページ)

» 2012年10月24日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネスの今

今や老若男女を問わず、愛されるようになったアニメーション。「日本のアニメーションは世界にも受け入れられている」と言われることもあるが、ビジネスとして健全な成功を収められている作品は決して多くない。この連載では現在のアニメビジネスについてデータをもとに分析し、持続可能なあるべき姿を探っていく。


 前回記事ではアジア諸国での人気アニメの状況をおさらいした。

 →「海外への外注増加で日本アニメは空洞化するか?

 現在、日本のアニメスタジオがアウトソーシングしている主な国は韓国、中国、フィリピン。タイやベトナムという例もあるが、数量的にはかなり少ない。そしてフィリピン、タイ、ベトナムはほとんど自国製のアニメがないので、競争相手とはなり得ない。

 こうしたことを踏まえると、ライバルになる可能性があるのは韓国と中国ということになる。特に中国については子ども(0〜12歳)層の人気アニメで自国製アニメがシェアトップになった現象を見ると、次第に力を付けているのは確かだ。

 ただし、この状況は自由な競争のもとで生まれた結果ではないので、間引いて考える必要があるだろう。中国アニメは国内では競争力を付けているものの、海外市場では日本アニメと勝負になっていないのが現状である。実際、中国以外で規制のないアジア諸国の人気アニメベスト10に中国や韓国の作品は1つもランクインしていない。つまり、日本や米国と同じレベルにはないということである。

 これらのことを考えると、海外に対するアウトソーシングでアジア諸国に技術が移転し、それらの国々がライバルとなっている事実は現状ではないと言える。それよりも前回記事の調査で明らかになったのは、日本のライバルはやはり米国という事実である。

米国では1959年からメキシコにアウトソーシング

 中国では長年に渡り、日本の動画・仕上げを中心とした下請けをやってきた。当然技術移転もあるはずだが、なぜ面白い作品が生まれないのか。

 その理由はアニメ制作の場合、アウトソーシングするのは比較的付加価値の低い動画、仕上げといった作業がメインで、作品の面白さやクオリティを支える高付加価値部門である原作、脚本、演出、絵コンテ、レイアウト、原画、音響といった作業は日本国内で行っているので、そう簡単に核心となる技術が移転するものではないからである(アウトソーシング大国の米国も同様)。

 そもそも、これはアニメ制作が海外アウトソーシングすることによって産業が空洞化するか否かという根本的な命題に関わることなので、その検証のためには歴史を調べる必要がある。そこで、世界で最初に海外にアウトソーシングした米国の例を見てみよう。

 米国が映画の黄金期を迎えていた1930年代、同国のアニメーション産業も世界中のスクリーンで見られるようになっていたが、その後テレビに進出するのも早かった。

 1952年にはジェイ・ウォード製作の世界初の短編テレビアニメのシリーズ作品『Crusader Rabbit(進め!ラビット)』が全米シンジュケーション・ネットワークでオンエア。1950年代末からはハンナ・バーベラ・プロダクションなども参入したが、その中でジェイ・ウォードが製作した1959年の『Rocky and Bullwinkle(ロッキー&ブルウィンクル)』では、いち早く動画や仕上げを始めとした工程をメキシコのスタジオにアウトソーシングするようになる。

 それはその後、米国からストーリーボード(絵コンテ)とタイミングシート(カメラワーク、セルワーク、タイミング、特殊効果などを記入する紙)を送ると、海外のスタジオで作画し、撮影まで行い返送、米国で音を付けて編集するという「合作※」スタイルの原型となった。

※日本が米国の作品を制作する際に、しばしば「合作」という言葉が使われた。この言葉だと共同制作という意味合いが伝わってくるが、実際は下請けだった。米国サイドが企画、原作、脚本、ストーリーボード、音響制作(米国の場合、音響は先行収録)、演出、MA、編集を担当。日本は作画(原動画)、背景、仕上げ、撮影を担当。

 ジェイ・ウォードから始まる米国のアウトソーシングの歴史は50年以上。仕事を振る先はその後、欧州、東欧、日本、韓国、フィリピンなど少しでもコストの安い国を求めて転々としながら、デジタルの時代になった現在では、地球の裏側のインドまでがその対象となっている。

 しかし、これらの国々へ半世紀に渡ってアウトソーシングを行ったことを理由に、米国のアニメーション産業が衰退したという話は聞かない。それどころか現在は多少バブル気味であり、映画産業では確実に存在感を増している。

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