今年こそ電子書籍元年!? 商機広がるも……課題山積(2/3 ページ)

» 2012年07月12日 13時48分 公開
[SankeiBiz]

出版社の役割は

 しかし、電子書籍の時代が本格的に到来すれば、出版社の役割も、もっぱら紙の書籍を出版していた時代から大きく変化する。

 紙の書籍の場合、著者から読者の手に渡るまでに、出版社、取次会社、書店などが介在するが、電子書籍は印刷や製本が不要なほか、発売元となる出版社も必要不可欠ではなくなる。このため、出版社を通さずに小説家や漫画家が作品をネット上で販売する“中抜き”の影響を危ぶむ声が、出版関係者の間では根強い。

 こうした問題意識を反映して、電子出版見本市と同じ場所で開催された「東京国際ブックフェア」で7日、「電子書籍時代に出版社は必要か?」と題したシンポジウムが開かれた。

 著作権問題に詳しい弁護士の福井健策さんの司会で、出版社の将来像について熱弁を振るった識者4人のうち、作家の三田誠広さんは「海賊版の流出時などに、出版社が責任を持って対応してくれる」と期待し、出版デジタル機構会長の植村八潮(やしお)さんも「書籍編集のほか販促面でも欠かせない」と評価。一方、評論家の岡田斗司夫さんは「デジタル化が進めば、出版社の役割は激減する」と指摘。漫画家の赤松健さんも、「残念ながら……いらないような」と述べて意見は2つに分かれた。

著作権でも論議

 需要拡大が見込まれる電子書籍だが、本格的な普及を前に、クリアすべき課題も数多く浮上している。電子書籍の規格乱立がその一つだ。

 電子書籍を読むには、一定の規格で書かれた電子書籍データと、データの閲覧ソフト、そのソフトを入れたスマートフォン(高機能携帯電話)や専用端末などが必要だ。しかし、国内では、多数の配信サービスや端末ごとに異なる電子書籍の規格が混在。利用者は対応するソフトをその都度、導入しなければならず、不便さが普及の大きな障壁となっている。

 原稿や写真などを編集した「出版物原版」について、出版社に著作権法上の権利である「著作隣接権」を与えるかも論議が盛んだ。ほかにも配信サービス業者の倒産などに伴い、購入した書籍の閲覧ができなくなる問題が指摘されており、解決に向けた取り組みが業界全体に求められている。

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