アップルは発売日まで新製品を隠そうとする……なぜインサイド・アップル(2)(1/3 ページ)

» 2012年03月16日 08時00分 公開
[アダム・ラシンスキー,Business Media 誠]

インサイド・アップル

 この連載は3月23日に発売される『インサイド・アップル』(早川書房)から抜粋、編集したものです。

アダム・ラシンスキー(Adam Lashinsky)氏のプロフィール

「フォーチュン」誌シニアエディター。専門はテクノロジー・金融。イリノイ大学で歴史学および政治学の学位を取得。シリコンバレーとウォール街をフィールドとするトップジャーナリストの一人として知られ、「フォーチュン」誌ではアップルの他、グーグルやHP等に関する特集記事を多数執筆。とりわけ本書の元となった、アップルの組織図や内部システムを明らかにした2011年5月のスクープ記事“INSIDE APPLE”は大きな反響を呼んだ。


 発売前の製品の宣伝に対する嫌悪感はアップルに根づいている。プロダクト・マーケティングを担当する上級副社長フィル・シラーは、製品発売をよくハリウッドの超大作映画の公開にたとえる。映画の公開直後の週末と同じように、発売後の最初の数日が肝心なのだ。それまでに詳細を発表してしまうと、期待に水を差すことになる。たしかに、製品発売に胸躍らせてアップルストアのまえで徹夜するアップル・マニアたちは、『ロード・オブ・ザ・リング』か『スター・ウォーズ』の新作公開を待ちわびて列をなすファンを思わせる。

 これこそシラーが発売初日の集中的な活動であげたい効果だ。

 「彼がグラフの急上昇する線を何度も書いていたのを憶えてるよ」。シラーの組織で働いた元幹部は言った。もちろん映画のたとえが完全に当てはまるわけではない。ハリウッドは人々の興味をあおるために盛んに予告篇を流すからだ。アップルでこれに相当するのは、噂を広めることである。それで新製品に対する期待が高まり、発売前の無料の宣伝になる。

 アップルが発売日まで新製品を隠しておきたがるもうひとつの理由は、すでにある製品への興味を失わせてはならないということだ。次に何が出るか、消費者が正確に知ってしまったら、どうせ次世代製品に代わるのだからと、いまの製品を買い控えるかもしれない。そうやって需要が減ると、すでに小売店の棚や倉庫で買われるのを待っている製品の価値がなくなってしまう(不確定の情報ですら販売に悪影響を与えうる。例えば、アップルの報告によると、2011年夏のiPhoneの新機種に対する期待で、既存のiPhone4の売り上げが落ちた)。

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