アップルは発売日まで新製品を隠そうとする……なぜインサイド・アップル(2)(2/3 ページ)

» 2012年03月16日 08時00分 公開
[アダム・ラシンスキー,Business Media 誠]

 もっとも重要なのは、準備ができるまえに製品を発表すると、競争会社に対応の時間を与え、顧客の期待を高めすぎて、実際の製品ではなくアイデアを叩く粗探しや批判にさらされることだ。秘密の力を利用できなかった会社は、その結果を受け入れなければならない。2011年の初め、HPはそんなプロダクト・マーケティング上の罪を犯した。定義が不充分な「クラウド」サービスを同年後半に提供すると発表したのだ。不思議なことに、HPは続いてPC事業の売却を「事前告知」し、売り上げの3分の1近くを占める事業ユニットに計り知れない打撃を与えた(HPの取締役会は、このPC事業に関する告知のすぐあとでレオ・アポテカーCEOを解任した)。

 製品発売にかかわるアップルの秘密主義は異常にも思えるが、それは、これほどうまく秘密を保持する会社がほかにほとんどないからだ。マット・ドランスは、最初エンジニアとして、その後エバンジェリスト(アップルのプラットフォームを利用した製品開発を支援する外部のエンジニア)として、アップルで8年間働いた。彼は「アップル的でない」アプローチを驚きの目で見る。携帯電話を製造する韓国企業LGエレクトロニクスが、すでに発表していた新しいスマートフォンの発売日をやむなく延期したとき、自身のブログ『アップル・アウトサイダー』に、「まったくこれには驚く」と書いた。

 作られているはずの製品がなかなか届かず、いざ届くと機能が思っていたより少ない。時間がなくなる。予想外の問題が生じる。バグでチームはてんてこ舞いになる。パートナーに計画変更を迫られる。何かをあきらめなければならない。機能を減らすか、もっと時間をかけるか。しかしその間、何カ月も宣伝していれば、みんなが待たされることになる。大口を叩くことの問題は、口に出したとたんにスケジュールに縛られることだ。製品が約束どおりに(または約束した期日に)出荷されなければ、まずまちがいなく世の中の評価が下がる。口を閉じ、(製品が完成したあと)製品そのものに語らせれば、人々が驚き、喜ぶチャンスはずっと大きい。このことを理解している会社もあれば、明らかに理解していない会社もある。

 アップルの秘密主義は内部から厳格に守られている。シリコンバレーのエンジニアは自分たちの仕事について情報交換するのが大好きだが、アップルのエンジニアは仕事の話をしない。

 「話しすぎて懲戒処分になった友人が何人かいる」。アップルの元エンジニアはそう語った。「ふだんは仕事のことを話さないのがいちばんだ」

 この考え方はテクノロジー業界でも珍しい。

 「パートナー同士も含めて、みんな怖れているのが手に取るようにわかる」。経験豊富なシリコンバレーの起業家で、長年のアップル・ウォッチャーであるジーナ・ビアンキーニは言う。彼女はインターネット新興企業マイティベル・ドットコムのCEOも務めている(マイティベル・ドットコムのホームページには、アップルのキャッチフレーズ「カリフォルニア州のアップルがデザイン」に敬意を表して、「カリフォルニア州で手作り」とある)。「あれほど社内に恐怖心がある会社はほかにない」

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