「あれから1年」を前にこの本を――大メディアが伝えてこなかった話相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年02月09日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 本書を読み始めた直後、すさまじい描写に打ちのめされる。だが、石井氏が伝えたのは、一瞬の津波で亡くなった方々の遺体を、生き残ったごく普通の人たちが最大限の尊厳を持って扱った事柄なのだ。

 筆者が4月初旬、震災後初めて石巻市に赴いた際、青いビニールシートに収容された多数の遺体を目撃した(関連記事)

 また、火葬が間に合わず、やむなく仮土葬する遺族にも接した。当コラムでもその一端に触れたが、短期間の取材だけで記述することに大きなためらいがあったため、ほとんど触れることができなかった。それだけに『遺体』で石井氏が徹底的に取材した事柄が筆者に突き刺さったのだ。

壮絶なる決意表明

読楽』(徳間書店)

 現在、石井氏は徳間書店の文芸誌『読楽』にて『津波の墓標 被災地で見た小さな真実』という大震災に関する連載ルポを展開中だ。同誌の連載第1回目の中で、こんな記述を見つけたので紹介する。

 『今私がすべきことは、津波の被害に遭っている最前線に立ち、マスメディアがつたえきれない光景や人々の叫びをすくい取って描くことだ。マスメディアの役割が大多数の現実を伝えることであったとしたら、私のような立場の人間はそこから零れ落ちた人や現実を拾い上げるのが役割だ。だとしたら、すぐに被災地へ赴いて自分ができることをする必要がある』

 これは、石井氏のノンフィクション作家としての壮絶なる決意表明であり、取材に際しての起点となった信条に他ならない。『遺体』同様、この『津波の墓標』で記されているごくごく一般の被災地住民が直面した事柄も、多くの大メディアが伝えていなかった真実なのだ。

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