2つの作品を読んだある日、筆者はテレビ局や新聞社、出版社に勤務するかつての仕事仲間たちと会う機会を得た。
席上、ある大手メディアの仙台支局で、一度も沿岸の地域に足を運んでいないベテラン記者がいることを知らされた。若手記者を取材拠点で取りまとめる立場ゆえ、現地入りしなかったのではなく、「行きたくない」というのがその理由だと知らされ、仰天した。
また、被災地取材を続ける筆者が、若手記者に対してなぜ被災地の現場に入ってみないかと尋ねた際は、「担当ではないから」との言葉を聞かされた。
取材し、読者や視聴者に伝えるべき事象が山積する中、大手メディアは津波の映像や写真、あるいは復興を遂げつつある被災地の一コマを切り取り、「あれから1年」の報道を行う。だが、現地の状況、特に肉親や友人を失った被災者の心情は大手マスコミが切り取る紋切り型の報道には盛り込まれない。
震災の発生以降、筆者が痛切に感じている事柄がある。被災者の気持ちをなんとか理解しようと意識し、これに寄り添おうと努める人たちと、全く関心を払わない人たちがくっきりと色分けされてしまっている点だ。
筆者を含めた腰抜けジャーナリストが伝え切れなかった本当の話が、石井氏の一連の著作には詳細に綴られている。同氏の作品を通じ、被災地の気持ちに寄り添ってくれる人が1人でも増えてくれることを願う。
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