今の日本に必要なことは何か? スティーブ・ジョブズの死を考える藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年10月07日 17時15分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 アップルの創業者の1人であるスティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。8月に病気で「その責務に耐えられなくなった」として第一線を退いたばかり。享年56歳。人生を駆け抜けた人である。

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 何度かインタビューしたことがある。1998年のiMac発表のときだった。部屋に招き入れられると、ずらっと並べられたiMacに「愛」という漢字が一文字大きく表示されていた。そして彼は言った。“It's beautiful, isn't it? ” そのときの彼の眼には、自分たちが世に送り出したマシンが大好きでたまらないという感情が満ちあふれていた。そして「愛」という漢字を美しく見せることができたという自信もあったのだろう。

 まさにそれこそが後に天才と呼ばれるジョブズ氏の原点なのだと思った。自分が本当に欲しいものは何か、それを開発するのがアップルの使命であり、そうすれば消費者はついてくると考えていたに違いない。だからいわゆるマーケットリサーチを信用していなかった。自分が開発する製品はこれまで存在していないものであり、そうである以上、消費者がそれについて正確に意見を言うことはできないという論理である。

 最初のiPodが世に出たとき、多くの人はその斬新なデザインに目を奪われた。ボタンがほとんどなく、ホイールを指で操作するというアイデアに感嘆したものである。そして同時に、音楽をPCのネットワークを通じて配信するというソフトとハードが一体化した「戦略」にも驚いた。音楽の著作権という分野にアップルが土足で入り込んできたと反発した関係者も当時少なくなかったはずだ。

 「戦略」とカギカッコを付けたのは、ソフトの囲い込みをジョブズ氏がビジネス上の利益追求のために考えていたのかどうか、そこにやや疑問があるからである。大量の音楽をどこにでも持ち運べて、しかも自由に好きな曲をインターネットから選んで買うことができる。そのためにはどうしたらいいか。それがジョブズ氏の意図であり、それ以上でも以下でもなかったように思う。

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