デジタルの世界の4つの戦い――Googleは「オフィス」を制するか?遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/3 ページ)

» 2011年08月04日 08時00分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研
デジタルの世界で起きているさまざまな戦い。プレイヤーもまたさまざまだ(C)アスキー総研

 ざっと眺めてもこんな感じで、あちこちで火の手が上がっている。

ヒト、モノ、カネから人と人との関係へ

 これらの中で、最後の「オフィス」という戦場はいくらか地味にも見えるが、ここはもともと世界のコンピュータ業界の主戦場だったところである。

 かつて「ワープロ」「表計算」「データベース」の3つは、パソコンソフトの「三種の神器」と呼ばれた。紙とボールペン、電話、テレタイプしかなかった時代のことを考えてほしい。この3つを使いこなすことで、オフィスでの業務が何倍も効率化されたことは間違いない。

 パソコンがより個人のための道具になった結果、今では3つ目は「プレゼンテーションソフト」(マイクロソフトでいえば「PowerPoint」)になった。ソフトウェアというのは、使う人のキャリアから人生まで変えてしまえる、本当に魔法の箱だとわたしは信じている。

 ところが、Microsoft Office 365やGoogle Apps for Businessでは、ワープロや表計算が「部分」としてしか扱われていないように見える。今のところ、ワードやエクセルのファイルが必須というユーザーが圧倒的に多く、それがマイクロソフトの重要な収益源になっているのは確かだ。そのポジションは、当分の間、簡単に変わるものではないだろう。しかしGoogleもマイクロソフトも、とっくにワープロや表計算を無料で提供しているのだ(どちらもWeb版で、GoogleはDocs & Spreadsheet、マイクロソフトはOffice Web Appsで簡易的なサービスを提供)。

 この2社が唱えているのは、オフィスにおいて、今や重要なのは「コミュニケーション」や「コラボレーション」だということである。ワープロや表計算がコモディティとなり、最後に残されたオフィスの課題は、人と人の間にこそ横たわっているというのだ。

 以前のコラムで、わたしはGoogleの新しいソーシャルメディアである「Google+」について、「単純に、サークルやビデオチャットをうまく使うと、グループウェア的なコラボレーション作業ツールとして重宝しそうでもある」と書いた。そして、「Google DocsなどのGoogleの既存サービスを、ソーシャルで使いやすくするという話かもしれない」とも書いたと思う。

 実際のところ、Google Apps for BusinessとGoogle+は、いずれどこかでガッチャンコと接続する可能性がある。自然が真空を嫌ってその間を埋めようとするように、「クラウドも真空を嫌う」というのが摂理ではないだろうか? このソーシャルサービスを持っていることが、「オフィス」の領域におけるGoogleのアドバンテージになるのではないかという気もするし、マイクロソフトも黙って見てはいないだろうとも思える。

 実は、企業向けにサービスを提供してきた会社は、すでにこれに取り組んでいる。例えば、Salesforceは、TwitterやFacebookにも似た(かつ、それらとつながる)「Chatter」というサービスを提供して話題となっている。フリーで使えるソーシャルメディア系のツールを、そもそもフリーのモノを使いたがらなかった企業があえて導入する事例が出てきているという話もある。

 もちろん、企業内におけるコミュニケーションやワークグループの生産性は、これまでもITの重要なテーマだった。しかし、従来の企業の情報システムは、「ヒト」と「モノ」と「カネ」を中心にとらえて作られていた。いわゆる「ERP」(Enterprise Resource Planning=企業資源の有効活用)の世界でもある。これのアウトプット(とくにお金)を見て企業は経営判断を行い、活力を増すようにしてきた。

 しかし、ビジネスを実際にドライブしているのは、「人と人の関係」と「時間」と「案件」なのではないかと思うのだ。

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