任天堂の「Wii U」は血みどろの戦いを覚悟したのか?それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2011年06月22日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2011年6月10日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 任天堂からWiiの後継機が発表された。「Wii U(ウィー・ユー)」。しかし、「斬新さがない」「画期的な機能がない」などとして、発表後に同社株価が年初来安値を更新する波乱含みの船出となっている。

 後継機「Wii U」と2006年に発売された現行の「Wii」の違いは、その姿を見ればすぐにわかる(任天堂ホームページ内関連記事を見て欲しい)。

 コントローラーの形状が決定的に違う。大きな携帯型ゲーム機かタブレットPCを思わせる6.2型のタッチパネルが鎮座しているのだ。6月7日、米ロサンゼルスで開幕した世界最大級のゲーム見本市「E3」での発表において、「(任天堂の)岩田聡社長は7日の発表会で、『初代のWiiよりも幅広い層にアピールできる』と述べた」(YOMIURI ON-LINE)という。

 例えば、「ゴルフゲームでは、テレビ画面にグリーンやカップ、床に置いたコントローラーにはボールが映し出される。Wiiのリモコンを握ってスイングすれば、コントローラーのボールがテレビ画面を飛んでいく仕組みで、実際のプレーにより近い感覚を体験できる」(同)という。

 今日の任天堂があるのは、失敗の上に立って「立ち止まって俯瞰(ふかん)してみたこと」である。

 1960年にセオドア・レビット教授がハーバード・ビジネス・レビューで発表した論文にある「マーケティング近視眼」に陥らなかったことだ。米国の鉄道事業は自らを輸送産業と定義せずに、鉄道会社同士の競争にあけくれた結果、自動車産業や航空産業に破れ衰退した。そうした近視眼的な経営を「マーケティング・マイオピア(近視眼)」と呼んだのである。

 任天堂も近視眼に陥り、2度も続けて痛い思いをした。スーパーファミコンと、NINTENDO64である。ハードウエアは独自の高度な規格にこだわり、ソフトも高度な開発ができるサードパーティーを厳選、子どものおもちゃ的なゲーム機のイメージ脱却を狙ったが、プレイステーション(PS)、PS2に敗れることとなった。また、次世代のニンテンドーゲームキューブもPS2に一矢報いることはできなかった。

 そこで、任天堂は「ブルーオーシャン」を見つけることにしたのだ。ブルーオーシャン戦略は戦わない。新たな市場を創り出す。「コアなターゲット」などのような、特定のセグメントを狙わない。新たな市場において、今までターゲットになっていなかった層を丸ごと取り込む。そして、新たな価値を訴求して、今まで持っていた付加価値からいらないものをどんどん捨てていく。任天堂はWiiを開発し、これまでゲームを手に取ったことのない人でも楽しめる、学べる、運動できる道具を提供するというブルーオーシャンを開拓したのだ。

 Wiiは大勝利を収めた。VGchartzという家庭用ゲーム機やゲームソフトの売上データを収集し公開しているWebサイトによれば、「Wii」の累計販売台数は約8700万台と頭一つ抜けている。Xboxは約5400万台、PS3は約5000万台だ(VGchartzの数字の信憑性問題もあるので、あくまで概要としてとらえておきたい)。

 しかし、ライバルも黙って指をくわえているわけではない。6月11日付日本経済新聞の記事によれば、「マイクロソフトやソニー・コンピュータエンタテインメントも体感型の機能を搭載したゲームで攻勢をかける。Wiiは独自性を発揮できなくなり、2010年度の世界販売は1508万台と前の年度に比べ27%減った」という。

 もはや任天堂とWii Uの前に広がっているのは「ブルーオーシャン」ではなくなってしまった。競合と血みどろの戦いを繰り広げる「レッドオーシャン」である。

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