Interview:バルバラ・ラディーチェ・ソットサス 「倉俣史朗を語る」(1/2 ページ)

» 2011年05月07日 16時37分 公開
[草野恵子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


「メンフィス」はとても自然に始まったのです――バルバラ・ラディーチェ・ソットサス

 エットレ・ソットサス氏が亡くなるまでの33年間、彼の活動を一番近くで見守り、一緒に活動してきたパートナー、バルバラ・ラディーチェ・ソットサス氏。最も近くにいた人の1人として、お話を聞いた。

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倉俣史朗さんとエットレ・ソットサスさんはとても深い友情に結ばれていたようですね。当時の2人の交流がどのような感じだったのか教えてください。

 エットレに連れられて初めて来日したときから、私たちはいつも、倉俣史朗さんとご一緒していました。ただ歩いたり、ショッピングをしたり、大勢の人たちと会ったり、倉俣さんが手がけたレストランで食事をしたり、お酒を飲んだり…… 長い時間を一緒に過ごしました。

 当時、何の話をしていたかはあまり覚えていません。もしかしたら飲み過ぎていたのかもしれませんし、もしくは楽しすぎて覚えていないのかもしれません。みなさんもご経験があるかと思いますが、とても嬉しく満足しているときは、その理由を探そうとはしないんですね。振り返ってみても、ただそこに座っているだけで、幸せに満ち足りた状態でいるというようなことだったと思います。

 このような幸せな状態でいるときには、いろんなことが自然に始まるんですね。その1つが、1981年に始まった「メンフィス」だったのです。私たちは戦略や概念の話は一切しませんでした。つねに、今、何をやらなければいけないのか、次回の展覧会はどうするのか、家具のドローイングはいつまでに準備できるのか、どういう写真を撮ればよいのか、そして次回はいつ会うか――そういった話しかしませんでした。

エキサイトイズム カールトン(メンフィス)1981年 棚 Photo:Alto Ballo

今回の展覧会で世界初公開となった「カチナ」についてお伺いします。ソットサス氏がカチナを描いたのには、何か理由があったのでしょうか。

 2004年の夏にシシリー島の別荘に滞在しているときに、彼はとても小さなスケッチブックにカチナを描いていました。そのスケッチをひと目見て私は気に入ってしまって、それをほしいと彼にいったんですね。彼は快く、私にプレゼントしてくれました。

 カチナは、ネイティブアメリカンが信仰する守り神のような存在。カチナは、2本、足があるとしたら、1本の足は現在の世界、もう1本の足は未知なる世界にあるというようなものだそうです。つねに未知なる世界に対して意識を持っていたほうが、ある日突然、未知なる世界に行ってしまったときに気持ちの準備になるのではないかと、彼にはそういう思いもあったのかもしれません。

エキサイトイズム カチナ、エットレ・ソットサス氏によるスケッチ(壁面)とともに

 彼がなぜカチナを描いたのかは私には分かりませんけれども、彼は晩年「デザインの力とは何であるか」ということをよく問いかけていました。デザインというのは、素晴らしいアイデアであるとともに、幸運を招くべきだというものだと考えていたんですね。カチナが幸運を招くと考えていたのかもしれません。

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