なぜ新聞が面白くないのか――それは人事が“残念”だから烏賀陽弘道×窪田順生の“残念な新聞”(4)(2/4 ページ)

» 2011年04月12日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

全国紙の地方面は“緩い記事”ばかり

窪田順生さん

烏賀陽:大阪地検特捜部元検事の前田恒彦容疑者が、フロッピーディスクを改ざんしたとして逮捕されました。朝日新聞のスクープがなければこの問題は闇に葬られていた可能性が高い。記事を書いた板橋洋佳記者はもともと栃木の下野新聞の記者でした。

窪田:地方紙というのは地元の財界や力を持っている人たちとズブズブな部分もあるんですが、戦うときには戦うんですよ。北海道新聞が北海道県警の裏金問題を取り上げたように。

 一方、全国紙では地方支局を2〜3年で転々する場合、赴任先でわざわざガチンコ勝負を挑む必要もない。下手に揉めると評価にも響く。そこそこ人脈をつくって、いつかまた何かの機会に情報をもらえればそれでOK――こういった雰囲気がありますよね。

烏賀陽:北海道新聞で裏金問題を追及した2人の記者と話をする機会があったんですけど、彼らは地元に根をおろしている。警察担当を10年以上経験している。経済界にも強いので、警察が沈黙しても別ルートからどんどん裏を取る。そういう高い技能で取材を続けているので、警察は太刀打ちできないんですよ。北海道新聞の記者のように職能を高めるためには、長い年月が必要です。

窪田:地方では経験を積んでいる地元紙と全国紙の若い記者が競争していますが、結果は見るまでもない。全国紙の記事を見ていると、“緩い記事”ばかりが並んでいる。これは地方支局の若い記者のせいではなく、組織上の問題ですね。

烏賀陽:今年の2月に渡米し、州政府と現地の記者がどういった関係なのかを調べてきました。カリフォルニア州の州都サクラメントを担当している記者のほとんどが、10年以上そこで取材活動を続けている。しかし、その間、複数の新聞社を転々としているんですよ。カリフォルニア州内だけでも20〜30ほどの地方紙があるので、その地方紙をグルグル回っている。

 彼らは転職を繰り返しているのですが、取材対象は変わっていない。人脈は10年単位で作っているので、信頼関係ができている。人間は信頼関係ができていないと、本当に大切な情報は言いませんから。

窪田:自分の人生を左右しかねない情報を、新人記者に言うなんてあり得ない。取材相手は「全国紙の記者が来ているから……」ということで、とりあえず“ヘコヘコしている”だけ。重要な情報は、絶対に言いませんよ。

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