見過ごせない、世界そして日本の食糧問題藤田正美の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年03月07日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 リビア危機を反映して原油価格が急騰している。原油のほとんどを輸入に頼り、その中でも中東産が90%を占める日本。急にエネルギーの安全保障という話題が大きくなってきた。しかし安全保障という意味では、エネルギーもさることながら食糧の問題も見逃すことはできない。

 すでに農水省は4月から小麦の政府売り渡し価格を平均で18%上げると発表した。直近6カ月の買い付けコストが上昇したため、国内価格を引き上げるというわけだ。値上がりしているのは小麦だけではない。トウモロコシや大豆、コメも値上がりしている。

穀物相場が上昇している理由

穀物などの国際価格の動向(出典:農林水産省)

 2008年にオーストラリアの干ばつなどを理由にやはり穀物価格が高騰した。これに対して自国の業者が値段のいい海外に輸出してしまうことを恐れた政府が、輸出禁止措置を取ったケースもあった。シカゴ商品取引所では、小麦が9.24ドル、トウモロコシが7.73ドル、大豆が16.58ドルという最値をつけている(いずれも1ブッシェル当たり:ブッシェル:穀物の量または重量をはかる単位。例えばトウモロコシは25.4キログラム、大豆や小麦は27.2キログラム)。

 その後は少し落ち着いていたが、昨年後半から相場がかなり右肩上がりで上昇してきた。リビア危機で投機筋がいっせいに穀物から原油に乗り換えるとされ、穀物相場はいったん急落したが、再び騰勢を強めている。トウモロコシは今年3月1日に7.22ドルをつけたほか、大豆や小麦もまた上昇しはじめた。

 相場が上昇している理由はいくつかある。ロシアやアルゼンチンの干ばつ、カナダやパキスタンの洪水、それに輸出制限や北アフリカ、中東諸国の食糧備蓄積み上げなどだ。それに投機筋の買いということがいつも言われるが、これについては疑問視する声もある。例えば食糧問題の特集をしている英エコノミスト誌の最新号では、「相場の振れ幅が大きくなるということはあっても、長期的に見ればそういった取引で相場を押し上げることはできない」と指摘している。

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