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» 2010年12月31日 08時00分 UPDATE

アニメ化は必ずしもうれしくない!?――作家とメディアミックスの微妙な関係 (1/4)

小説や漫画がドラマ化やアニメ化されることは、それが広告効果となって知名度が上がったり、売り上げが増えたりするため、一般的には作者にとって良いことだと思われがちだ。しかし、ライトノベル作家の松智洋氏は「必ずしも良いとは限らない」と主張、アニメ化された『迷い猫オーバーラン!』の経験を例にメディアミックスの功罪を語った。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 1つの作品を小説や漫画、アニメやラジオドラマなどで同時多発的に展開し、相乗効果でそれぞれの注目度を高めていくメディアミックス。コンテンツ業界では親和性の高い媒体ということで、小説のテレビドラマ化や映画化、漫画やライトノベルのアニメ化などがよく行われている。

 原作となる小説や漫画の作者にとっては、メディアミックスは広告効果となるため、知名度が上がったり、原作の売り上げが増えたりするなどメリットは多い。しかしその一方で、ライトノベル作家の松智洋氏は「作家は必ずしもアニメ化を喜んでいるわけではない」という。2010年4月期にアニメ化された『迷い猫オーバーラン!』の経験を例に、松氏は作家にとってのメディアミックスの功罪を語った。

 →あかほりさとる氏が語る、メディアミックス黎明期

※この記事は11月21日に行われたコンテンツ文化史学会2010年大会「拡大するコンテンツ」のシンポジウム「メディアミックスの歴史と展望」の一部をまとめたものです。
ah_matu1.jpg ライトノベル作家の松智洋氏

ライトノベルがアニメ化しやすい理由

ah_matu2.jpg 松智洋著『迷い猫オーバーラン!』

 僕が書いている『迷い猫オーバーラン!』という作品は、アニメが2010年の4〜6月に放映されました。小説9巻、漫画2巻、ファンブック1巻で合わせて200万部強売れているのですが、正直知らない人の方が多いだろうと思います。もちろんヒットコンテンツの中に入れてもらえるとは思うのですが、同規模の作品が今、大量にあるという認識があるからです。

 並行して『パパのいうことを聞きなさい!』という小説を現在4巻まで出していて、30万部強売れています。現状のライトノベルの市況からすると、非メディアミックス展開の作品としてはそこそこ上位の数字だと言えますが、恐らく誰もご存じない。しかし、ここにこの先の話をする意味があるので、それを前提に置いた上で進めさせていただきます。

 まず、あかほりさんのお話が1990年代前半で止まってしまった感じなので、その後のアニメなどの状況から説明していきます。1980年代終わりから1990年代にかけての時期は『美少女戦士セーラームーン』や『新世紀エヴァンゲリオン』のような男女のコンテンツの境目をぶち壊していくような巨大なヒット作品、誰もが知っているという作品がまだ発生していた時代でした。『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』など、当時オタクと言われるような人なら100%、基礎教養として知っている作品が1990年代までは存在していたと言えると思います。

 ところが、2000年代に入ると、そのような“誰もが見ている作品”が極端に減少します。その理由は単純で、1990年代までは半年に30本も作られていれば多かったアニメ作品が、メディアミックスの成功から、放映権料の安い深夜枠を狙って大量に制作されるようになったからです。(おもちゃの販促のためではなく)アニメ作品そのものをコンテンツとしてDVDなどで販売する状況が生まれて、結果として、薄利多売という感じでアニメの制作本数が極端に増加しました。

ah_matu10.jpg テレビアニメ作品制作本数推移(クリックで全体を表示、出典:日本動画教会)

 そうなると発生する問題が原作不足です。ちょっと人気がある作品はどんどんアニメになっていくという状況が生まれ、しかもそのアニメの作品寿命が非常に短くなっているのです。日曜朝の枠が典型的ですが、1980年代までは1つの作品を4クール(1年間)やっているのが大半で、2クールで終わる作品は短いという印象がありました。しかし、1990年代後半からは深夜枠で1〜2クールで終わってしまう作品が中心となり、2000年代に入るとほとんどが1クールで終わってしまうようになっています。

 そうなると、1年間枠を維持するために4本の原作が必要になるという状況があって、結果としてちょっと人気がある作品はすぐアニメ化の声がかかるようになりました。つまり、メディアミックスを展開するために、業界はどんどん新しいコンテンツを供給し続けないと、その状況が維持できないという逆転現象が起こり始めているのです。メディアミックスという形が前提にあるので、あかほりさんがおっしゃったようなメディアミックスに対する手作り感や、1つの作品を大切に伸ばしていこうというものはどうしても薄れてきます。

 ライトノベル作家の立場からすると、アニメ化するのに必要な単行本数が、漫画に比べるとライトノベルでは少なくていいと言えます。例えば、週刊連載の漫画であっても、単行本を4巻出すには最低でも1年間かかります。その1年間でキャラクターをどれだけ出せるかというと、10キャラクターを出したらもうパンクするような内容になりがちです。一方、ライトノベルでは1巻で10キャラクター扱うことも可能です。

 特にヒット作を出すようなライトノベル作家には比較的多作な人が多くて、平均で年4巻程度書くと考えると、漫画10巻分くらいのキャラクターを1年で出すことができます。そういう意味で、ライトノベルはメディアミックスの種として使いやすいので、新作でちょっと人気があるとすぐに「アニメ化したい」という声がかかる状況が近年続いていると認識していただいていいと思います。

 『けいおん!』や『らき☆すた』のように、ライトノベルと同じくキャラクター数を増やしやすい4コマ漫画のアニメ化も増えていて、結果として大ヒットしています。ライトノベルからの大ヒットよりも4コマ漫画からの大ヒットの方が現状多いような印象がありますが、そのあたりはメディアの親和性の問題とも絡んでいるのかもしれません。

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