コンビニおでん“70円均一”の謎を深掘りするそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年11月17日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年11月12日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 10月13日付日本経済新聞本紙35面の小さなコラム「数字すうじ」にその話題が掲載されていた。タイトルは「70円――コンビニおでんセール、なぜか各社が横並び」。コンビニ各チェーンのコメントを掲載しているところに注目したい。

 ある大手チェーンは「70円均一はセブンイレブンが先行し、対抗上、同じ価格になった」と説明。70円は「店名のセブンにちなんだのでは」とみる。別のチェーンは「利益がとれるぎりぎりの値段。7個買ってワンコインで済む分かりやすさもある」と明かす。一方、セブン-イレブン・ジャパンは「不動の一番人気の大根が75円なので、それを下回る価格設定とした」と「店名由来説」を否定とある。

 「コンビニのおでんは、なぜ70円均一なのか?」。上記記事では分かったような、分からないような状態。そもそも、コンビニがおでんに注力するのはナゼか?

 11月3日付日経MJ5面のコラム「光る技術 光る戦略」にその理由が記述されている。おでんは一般的に利益率が高く、コンビニエンスストア各社にとって秋冬の主力商品の1つなのだ。

 では、なぜ、利益率が高いのか? 少し考えてみてほしい。ヒントは「加工度」というキーワード。

 コンビニだけの話ではないが、一般的に「加工度を上げる=付加価値が増す」ことになるので、販売価格を高めることができる。魚を考えてみればいい。魚をそのままビニール袋に入れて売るよりも、切り身にしてパックした方がグラム単価は上がる。切り身ではなく、刺身にした方がさらに単価は上がる。刺身ではなく寿司になれば最も単価が高い状態になる。もちろん、その間にトレーや刺身のツマ、寿司のシャリなどの材料費や何より人件費がかかるが、利益=売り上げ−コストなので、単価アップ分がコストを上回ればオイシイ商材となる。

 安くて、そこそこおいしく、油を一切使っておらずカロリーも低いスーパーの寿司を、つい手にとってしまう独身男性は多いと思う。店側からしてみれば、とっても良い上客ということになる。

 さて、コンビニ店頭で販売される商品は、ナショナルブランドか PB(プライベートブランド)の別はあっても完成品だ。利益=販売価格−卸値で決まっている。店頭でさらに収益を上げるなら、店員であるパート・アルバイトの人件費はすでに決まっているので、店内で加工度を高めて収益を上げられる「店内調理品」を充実させることに走るわけだ。

 収益率の高い店内調理品の中でも、最も単価アップが期待できるのが「おでん」である。なぜなら、「コロッケ1つ」とか、「チキン1つ」というように、揚げ物系の店内調理品は基本的には単品注文。しかし、おでんで「はんぺん1枚」とか「大根1つ」とか単品で注文する人は、まずいない。

 同一商品の買い増し・買い換えを促進することを「アップセリング」という。その意味で、おでんは店内調理品の優等生であるのだ。

 しかし、上記11月3日の日経MJの記事には昨今の変調が記されている。消費者の節約志向や他チェーンとの競合激化で、おでんの購入数量も1人当たり4個程度で頭打ち感が出ているという。

 そこで、70円均一の1つの理由が考えられる。もちろん、前掲のコラムのコメントにあるように、値引き合戦的な意味合いもあるのだろうが、「7個買ってワンコインという分かりやすさ」というコメントが最も正解に近いのではないだろうか。キーワードは「分かりやすさ」だ。

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