コンビニおでん“70円均一”の謎を深掘りするそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年11月17日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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分かりやすさが生む価値

 おでんにはネタがたくさんある。セブンイレブンのコメントでは大根が最強とのことだが、各社が魅力を出そうとすれば、限られたスペースの中で工夫して変わり種も取り込むこととなり、種類は増える。しかし、選択肢が多くなれば、人は結局無難な“いつものもの”を選んでしまう。

 行動経済学では、この習性を「現状維持の法則」という。以前、放映されていた、プリンストン大学の行動経済学者・シャフィール博士が解説をする大和証券グループのCMを覚えている人もいるだろう。人は選択肢が多いと、凡庸な選択をしがちなのだ。

 さて、おでんの場合も、数多いネタを目の前にして迷ったあげく、結局、大根といくつかの定番ネタに落ち着く人も多いだろう。さらにネタごとに価格がバラバラだったら、支払総額の計算が面倒になる。うっかり、新しいものに手を出して「思ったより高く付いた!」ということになるリスクを回避しようという意識が働く。

 ゆえに「均一価格の分かりやすさ」が必要であり、「消費者に対するお得感」と「競合との価格比較」で「70円」という金額が決まり、「70円均一」にたどりついたのだと思われる。

 ここからは少し余談めいてくるが、おでんを巡る各社の戦略も非常に面白い。例えばサークルKサンクス。前出の11月3日日経MJコラムには、「サークル Kサンクス“チョイ足し” おでん、気軽に“自分流”」という見出しと、合わせて掲載されたおでん売り場写真には、「“チョイ足し”コーナーに並ぶ札から好きな商品を選ぶ」というキャプションが付いている。

 おでん鍋の前に8種類の札が設置されている。つゆに溶かして味を変える、スープ代わりにする「カレー」「チゲ」「とんこつ」「コラーゲン」の粉末スープ。具材として追加して主食機能を持たせる「おこげ」「焼き餅」「うどん」。人気の「ピリ辛練りラー油」も用意されている。

 記事によると、同社では従来の70〜125円から80円と100円の2つの均一価格に見直した。計算しやすさを重視した取り組みであるとし、70円ではないが、上記と同様に「現状維持の法則」を打破する狙いが見える。

 「チョイ足し」の展開は、購入数量を増やす「アップセリング」に加えて、「関連商品の購入」を意味する「クロスセリング」で収益の向上を図る狙いだ。クロスセリングをしつつ、飽きさせないためにさまざまな具材を試させる。そのため、表面に焦げ目を入れる焼き餅などは「通常は100円を超す商品」というが、あえて100円を切る90円に設定したという。

 つまり、収益が低い、場合によっては赤字を覚悟で客を集める商品=「ロスリーダー」も設定しているのである。

 手に取らせたい客は誰か。同社の真の狙いは、「おでんの購入数量1人当たり4個程度で頭打ち」打開のため、「新規顧客を獲得すること」だという。おでんといえば、店内に漂う香り、味に大きな違いはない。それに対して「チョイ足し」で魅力を高め、「70円均一」から抜け出て「80円・100円均一」に賭けている。

 消費者から見れば、“たかがおでん”。店側からすれば“されどおでん”なのだ。秋、冬の主力商品として各社がしのぎを削るおでん売り場からは、それぞれのマーケタ―の創意工夫が見てとれる。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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