『ハート・ロッカー』と『シャッターアイランド』、主人公がビョーキなのはどっち?映画でポン!(2/3 ページ)

» 2010年10月01日 08時00分 公開
[櫻井輪子,Business Media 誠]

ジェームズ、死ぬときは爆弾で死にたいんじゃない?

ハート・ロッカー ハート・ロッカー』 米軍への爆弾テロが耐えないイラク、バグダッドを舞台に爆発物処理班のリーダーとして赴任したジェームズ軍曹とそのチームの緊張感あふれる日々の記録。ジェームズ軍曹は、慎重を期すべき現場にもかかわらずマニュアルを無視したやり方で淡々と爆発物を処理していく。その破天荒なやり方にチームのメンバーは反発を覚えながらも、任務の完遂を重ねてチームとしての結束を固めていくが。アカデミー作品賞を授賞した爆弾処理にとりつかれた男の物語(ポニーキャニオン、4935円)

佐々 わしはジェームズ軍曹のほうがビョーキだと思うね。デカプー演じるテディは最後には正気に戻ってた気がするもん、わし的には。正気に戻ってみずからあの結果を選んだ、という潔さを感じた。

わこ うは、いきなりネタバレ抵触!? あのラストは見る人によってどうとでも読める終わり方だからなあ。テディがビョーキか正気かは、各自判断してくださいってとこだけど、彼が病気だとすると、あの状態になった理由っていうのは、ジェームズ軍曹よりは人間らしい気がしちゃうかな。

佐々 人間らしいっていうか、状況として感情移入しやすいだけだろ? 身近な人間の不幸なら想像の余地があるけど、戦場の緊張感なんてまったくこれっぽっちも理解できないもんな、わしら。

わこ ほんとだねえ、でもチームの仲間からも「理解できない」っていわれてたよ、ジェームズは。ジェームズの前の爆弾処理班班長が爆死するシーンから映画が始まって、途中上官から「爆弾処理で一番大切なことは?」って聞かれて「死なないことです」って答える。だけど仕事の仕方があまりに無謀なので部下からは「命知らず」と思われてる。

佐々 873個もの爆弾を処理してきて、いまだに生きてるってとこがもうすごいんじゃないか? それだけの数こなしてきたら、どこを用心してどこは手を抜いてもいいか経験で分かる、という感じかなー。っていうか、あれだけ爆弾処理が好きなら、そう簡単に死にたくないだろうよ。

わこ 処理中は、生き生きしてるっていうか目がらんらんとしてるもんね。でも、死ぬときは爆弾で死にたいんじゃない? あのスーパーマーケットでの居心地の悪そうな様子を見たら、この人は戦場で死ぬのが幸せなんだろうな、と思わざるを得ない。

佐々 まあね、本人はね。でも部下はたまったもんじゃないだろうよ。「こんな無謀な班長についてたらいつか死んじゃう、それなら誤爆ってことにして、いま殺しちゃう?」って相談しちゃうくらいたまったもんじゃない(笑)

わこ あのシーンね、すごいブラックだったけど、あり得る話かもね。戦場での人間関係って自分じゃ選べないから、生き延びる確率が高まるならどさくさにまぎれて困った上司を始末しちゃえ、と。

佐々 同じような状況下にいるのに、ジェームズはビョーキだけど、部下はわりとまともだよな。普通に死ぬのを恐れてるし、怖がるし、家に帰りたがる(苦笑)

わこ それに対してジェームズは乳児の息子に「本当に好きなことは大人になるとどんどん減っていって、俺くらいの年になると1つしかない」とかいっちゃったりするもんね。もう爆弾処理以外のことでは充実感も快楽も得られないんだ、といわんばかり。完全に中毒、アル中だったら入院が必要なレベル。

佐々 入院が必要なレベルの中毒でも戦場で役に立ってるかぎりは入院はさせられないよ、『シャッターアイランド』みたいに。

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