イマドキの若い人はお金を求めない――この言葉の裏に潜むワナ吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年08月27日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 つまり、彼らは、自らの退職金は受け取るが、自身が経営する会社では社員に支払わない。その点を問いただすと、1人はこう答えた。「私は入社する際に、退職金があるかどうかを基準にしたのではない。退職金が働く動機になっていたわけではない。たまたま、そのような制度があり、退職するときにもらっただけのこと」

 この回答は、詭弁(きべん)にしか聞こえなかったので、こういう質問をした。「社員たちに、次のことを伝える必要はないですか? 私は退職金をもらうことで、会社を創業することができた。皆さんには、この退職金を支給しない。そうすると、ハンディを負うことになる。それでいいですね」と。

 社長は苦笑いをし、何も答えなかった。退職金がなくとも、その分(積立の分など)を毎月の給与に上乗せすれば、問題はないかもしれない。しかし、これらの会社は一切支給していないのだ。

どさくさまぎれに制度を廃止?

 多くの企業で退職金制度の改革が行われたのは、1990年代後半から2002年くらいの時期だ。大きな理由として、2001年3月期決算以降、「退職給付会計」という会計制度が始まったことが挙げられる。

 この制度により、退職給付の積立額を負債計上することが必要になった。つまり、毎期の決算で退職金をいくら積み立てるか、決算時点でどれくらい積み立てをしているのかを財務諸表に開示することが義務付けられたのだ。

 こうした流れを受けて、当時、大手メーカーの中には社員が退職金の前払いを選択できる制度を設けた会社がある。誤解がないように述べると、このメーカーは退職金制度を廃止にはしていない。社員が毎月の給与を受け取る際に、積み立てた退職金を上乗せしてもらえるコースを設けただけなのだ。

 ところが、一部のメディアがこの改革を情緒的に報じた。つまり、「会社は社員を突き放し始めた。だから、会社員は会社にぶら下がってはいけない」という論調である。経済団体や大企業お抱えの有識者たちもそれに便乗し、「会社にぶら下がるな!」とか「時代は変わった」とあおり続けた。

 それより数年前には、山一證券や北海道拓殖銀行が経営破たんし、日本経済は大きな曲がり角にさしかかっていた。そう考えると、危機意識を持つことは当然だろうが、行き過ぎた報道であったと私は思う。

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